love you, love me!



「あーぶーとーさんっ」


ぼふん。

広くてあったかな背中に勢いよく飛びつくと、背の小さな私よりも遥か頭上から、阿伏兎さんの呆れたような声が降ってきた。


「痛ェだろォ……おじさんの腰痛が悪化したらどうしてくれんだ」


そう言うと阿伏兎さんは器用に身体を捻って、右手でガシガシと私の頭を撫でる。
ううん。撫でる、というよりは髪を好き放題ぐしゃぐしゃにする、といった感じ。
どんなに可愛くヘアアレンジしてみても、阿伏兎さんの前では無意味。
可愛いな、なんて言われる前に崩されてしまうから、少し寂しさはあるけれど。
でも、手のひらの感触が温かくて、いつだってたまらなく嬉しくなれる。


「だって阿伏兎さんの背中、抱きつくのにちょうどいいんだもん!」

「ちょうどいいって何だよ。おじさんはお嬢さんの抱き枕じゃねェぞ」

「ちがうよむしろ私が阿伏兎さんの抱き枕になるよ」

「……お前さんなあ」


少しは自重しろ。なんて、ため息まじりな阿伏兎さんのお言葉。
私は女の子だから、軽々しくそういうことを言っちゃいけないんだって。
でも、愛情表現に男も女もないでしょう?って言ったら、困った顔でおでこを小突かれてしまった。


「だからなお嬢さん、そうやって人を勘違いさせるようなことをポンポン言うもんじゃねェ。団長あたりの前では絶対言うなよ、すぐ食われるからな」

「団長?団長になんか言うわけないじゃん。阿伏兎さんだけ」

「……奈紅瑠」

「勘違いなんかじゃないよ阿伏兎さん。私、阿伏兎さんのこと大好きだよ」

それは、もう何度目になるかも分からない告白の言葉。
まっすぐに阿伏兎さんの瞳を見上げて。
いままではいつだって軽くあしらわれてしまった。
おじさんをからかうもんじゃねェ、なんてお小言付きで。
でも、もうそんなことは言わせないから。


「ねえ阿伏兎さん。私本気だよ?好き。大好きなの阿伏兎さんのこと。ライクじゃなくてラブなんだよ。世界中の誰よりも、どんな美味しいものや甘いものよりも、阿伏兎さんのことが好きなの。そりゃあ、大人の阿伏兎さんからみれば子供かもしれないし、魅力ないし、胸もちっさい……かもしれないけど。それでも私、」


一息ですべて言い切る前に、私の視界が急に真っ暗になった。
あれ、おかしいな。貧血でも起こしたのかな。なんだか身体が締め付けられてるみたい。
あったかくって、ぎゅってされてるみたい。


「奈紅瑠、俺ァ自惚れてもいいのかね?」


あれ、なんだかすっごく近くで阿伏兎さんの声がするや。
ふんわりと鼻をくすぐる阿伏兎さんのにおい。
ああそうか、抱きしめられてるのか。
……うん?
抱きしめられてる、の、かな。


「阿伏兎、さん」

「おじさん心は純粋な少年だからな。女にそういうこと言われるとマジで本気にしちまうぞ」


言いながら、背中に回されている右腕に力がこもる。
いま久しぶりに、団長に落とされた阿伏兎さんの左腕が恋しくなった。
こういうとき、たくましい両腕で抱きしめれたら、どんなにか幸せなんだろう。
だけど。私を抱き寄せてくれる右腕は、酷く温かくて力強い。
そんな些細な寂しさなんて、一瞬で拭い去ってくれるくらいに。


「本気にしていいよ。ううん。本気にして、阿伏兎さん」


私、ずっとずっと待ってたんだから。
私がそう言うと、阿伏兎さんは抱きしめている腕をほどいて、指先で私の顎を持ち上げた。
交わる瞳と瞳。
阿伏兎さんの瞳の中の私は、なんだかすごく幸せそうに見えた。


「こんなオヤジでいいのか、奈紅瑠」

「こんなオヤジがいいんです。ていうか阿伏兎さんじゃなきゃ嫌」

「ったく……わがままなお嬢さんだ」


初めて阿伏兎さんと交わしたキスは、春雨の戦艦の廊下で。
そっとついばむだけだったキスが、もっと甘く濃厚なものに変わったのは、その日の夜のことでした。



(ねえ今日奈紅瑠は?腰痛?ふうん。阿伏兎、殺してもいい?)
(団長、マジで奈紅瑠狙ってたのか……)



fin
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