愛くるしい、愛苦しい




近藤さんが斬られた。

携帯越しに山崎の慌てた声を聞いて、目の前が真っ暗になった。
そして、次の瞬間には病院に走り出していた。
財布も、携帯も、師走のこの時期に上着さえ持たずに。
久しぶりに万事屋に入っていたネズミ駆除の仕事も放り出して、走った。

はち切れそうな心臓。でも、苦しくない。
近藤さんのほうがずっと痛い。ずっと苦しい。
そう思ったら、目からいっぱい涙が溢れた。


『じゃあまたな』


そう言って笑ってくれた近藤さんを最後に見たのは、ちょうど一週間前。
もしかしたらと、不吉な予感ばかりがちらつく。
死なないで、近藤さん。
頭の中は、もうそれ一色。


どうやって病院にたどり着いたのか、
どうやって病室を聞き出したのか、よく覚えていない。
それでも、涙で顔中ぐちゃぐちゃな女が息を荒くしてナースステーションに飛び込んでいたとしたら、ナースの皆さんはさぞかし恐ろしかったに違いない。
何はともあれ、頭の片隅にかろうじて記憶した610の数字が記された病室を見つけると、ほとんど倒れこむように扉を開けた。


「近藤さん!!」


荒い呼吸のままで病室に突入すると、たくさんの黒服の人たちがいた。
一瞬喪服に見えて、息を呑んだ。けれどすぐにそれが真撰組の隊服だと気付く。
その黒服に囲まれたベッドの上に、いた。


「奈紅瑠……?どうした、そんな顔して!」


患者さん用の白い寝巻き姿で……でも、すごく元気そうな、ゴリラ。


「こん、どーさ……」


ふらふら。
むしろ心配ですっ飛んできた私のほうが死んでしまいそうなくらい。
思わずその場にへたり込んだら、慌てた土方さんに助け起こされた。


「大丈夫か」

「大丈夫じゃ、ない……近藤さん、が……斬られたって、言うから……」


息も絶え絶えにそう言ったら、山崎ィィィィ!!え゛え゛え゛え゛!?オレのせいなんですか!!?っていうやり取りと破壊音が聞こえた。


「そうか。悪かったな、奈紅瑠……」


ベッドの上で困ったように笑う近藤さん。
斬られたっていうのはそれでも本当みたいで、よく見たら寝巻きの合わせ目から包帯がのぞいているのが見えた。


「近藤さん……近藤さん……!」


死んじゃうかと思った。もう会えないかと思った。
いろんなことを口走りながら、ベッドの上の近藤さんにすがりつく。
いつの間にか、隊士の人たちはみんな病室から出ていっていた。


「悪いな、心配かけちまって…でも本当にたいした傷じゃないんだ。だから安心してくれ、奈紅瑠」


そう言って、近藤さんは泣きじゃくる私の頭を撫でてくれた。
そのぬくもりが本当に嬉しくて、また涙が出る。


「しかし……俺は幸せ者だな。奈紅瑠にこんなに心配してもらえる」

「もう……」

「だが、奈紅瑠を泣かせちまったのはいかんな…すまん、奈紅瑠」

「ううん……よかった、近藤さん……生きてて……」

「奈紅瑠……奈紅瑠を残して、俺は死なんよ」


約束だ。
頭のてっぺんに口付けられた熱は、いつまでもいつまでも、消えなかった。



fin
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