針鼠
昼間、六番隊の人に告白された。
あなたが好きです。
あなたが京楽隊長の恋人であることは知っています。
でも、それでもあなたのことが好きなんです。
ただそれだけ、どうしても伝えたかった。
そう言って彼は一礼して去っていった。
私は何も言わなかったし、何も言えなかった。
私の気持ちは今も昔も決まっていたし、これから先もそれが揺らぐことはないと分かっていたから。
けれど。
運悪く京楽隊長がその場に居合わせていたらしく。
彼が去った後、隠そうともしていない霊圧が痛いほどに私の背中に突き刺さった。
「……隊長」
「やあ、こんなところで逢引かい?」
ああ、怒っている。
振り返らずとも、背後からかけられた声は笑っていて笑っていない。
「……馬鹿言わないで下さい。私は、」
とたん、背中から抱きしめられた。
それは痛みを感じるほどの強い抱擁。
頬にかかる彼の吐息は、とても熱い。
「……僕以外なんて、見なくていいよ」
「見て、ませんよ」
「君は僕以外、知らなくていい。僕以外、何も」
「隊長」
それは、私の台詞なのに。
互いに宛てのない問答は、互いを傷つけあうばかりで、痛いだけ。
それでも届けたくて、言葉を重ねるばかりの私たちは揃ってちっぽけな臆病者だ。
「京楽隊長」
「……」
「……春水さん。お願い」
私を、見て下さい。
くるりと、彼の腕の中で体の向きを変える。
まっすぐに見上げた彼の瞳。
それは普段からは想像も付かないほど、揺れていて。
「私は、あなたしか見えてません」
「いままでも、これからもずっと」
「あなたのそばに、置いて下さい」
ああ、ようやく笑ってくれた。
瞳を大きく見開いた後、ゆるりと微笑んだ彼は、もういつもの京楽隊長。
「ありがとう。僕も、君が好きだよ。彩ちゃん」
「ずっと、ずっと。お慕いしています」
臆病者の私たちを、空に白くにじむ太陽が笑っているような気がした。
fin