目が覚めるとマゼンダは黄色い砂浜に寝そべっていた。起き上がると、隣に黄色い男が座っている。
「ここはどこ」
「ここは黄色い孤島さ」
 問いかけには黄色い答えがかえってきた。別にきいきい声だったわけじゃないけれど。
「どうして、黄色い孤島なんておかしな名前なの?」
「この島が黄色いからさ」
「そんなはずないわ、あっちには緑と茶色のヤシの木が生えていたもの」
「本当にそうかな」
 にやにや笑う男に腹を立てたマゼンダはぷいっと顔を逸らしてしまった。けれどすぐにぽかんと口をあけた。
「あら? あれ? どうしてあのヤシの木、黄色いの?」
「ここが黄色い孤島だからさ」
「そんなはずないわ、だって、だってだってさっきまで緑と茶色だったもの」
「本当にそうかな」
 そう言われると、マゼンダだって自信がなくなってくる。さっきちらっと見ただけだもの、見間違えたのかもしれない。
 ぐるっと辺りを見回してみても、そこいらじゅう黄色黄色黄色なのだから、ちょっと見間違えても不自然じゃない。黄色い砂浜、黄色いヤシの木、黄色い石に黄色いカニ。うんざりするほど黄色ばかり。
「あなたは誰なの?」
 うんざりしたマゼンダは隣の男に問いかけた。
「ぼくはブルースさ」
「ブルーっていうにはあなた、黄色すぎるわ」
「本当にそうかな」
 だってあなたどこもかしこも黄色じゃない、と言いかけて、マゼンダはやっぱりぽかんと口を開けた。男の髪は海よりも鮮やかな青になっていた!
「さあ、ぼくはこれでさよならだ」
「なにを言っているの? どういうこと?」
「ここが黄色い孤島だからさ」
 言うが早いか男は砂を蹴って海に飛びこんだ。浅瀬のはずが、男の姿はどこまでも沈んでいく。
「待って! わたしはどうしたらいいの!」
 マゼンダは叫んだけれど、顔に水がぱしゃんとかかって思わず口も目も閉じてしまった。目を開けると男の姿はなかった。
 自慢の赤毛は水に濡れて黄色になってしまったし、あたりは正真正銘黄色ばかりだし、マゼンダは心底うんざりだった。
「これじゃわたし、マゼンダじゃなくって黄色い女ってかんじだわ」
 黄色い女は黄色い孤島で黄色い膝を抱えて黄色くまどろむことにした。なぜならここが黄色い孤島だから。


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お題:黄色い孤島
必須要素:夏休み
制限時間15分(ここに掲載する時に+5分くらいで修正)