ツイッターで書いた140文字SS その2



一人ぼっちの妖精は海底の若木の夢を見るか/ティンク
 あたしは海の中にいた。苦しくはないし、翅を使って泳ぐこともできた。微かな光を頼りに当て所もなく泳いでいると、やがて木を見つけた。若いしなやかな木が群青の水の中でゆらゆらと揺れていた。その根本に兜が一つ転がっている。鈍い銀色のそれはジルバのものだ。近付いて潜り込むと、懐かしい匂いがした。あたしは兜の下を這う根に抱き着くようにうずくまって目を閉じた。木肌へ押し付けた耳に、木の内側を流れる血潮の音が聞こえる。この木はジルバなんだ。胸が締め上げられるように痛んだ。あたしが溜息をつくたび海水は肺を浸してぬるくなっていく。どうしてあたしは、溺れられないんだろう。

本家掲示板に投稿したもの。



最後の言葉/ルティン
 魔王を殺した討伐軍が凱旋した日から三百年と少し。老いたエルフと幼いままの妖精が、かつて魔王城のあった丘で空を眺めている。
「思い出の場所ね」
「そうですね」
「あなたも行くのね」
「ええ」
「また会える?」
「どうでしょうね」
「意地悪ね」
「エルフですからね」
 それから二人は「またね」と別れた。
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来世でもよろしく/ブルマぜ
「じゃあ、来世でもよろしくね」
「来世なんて当てにしてないわ」
「冷たいなあ」
「当然じゃない」
「でも優しいよ」
「優しくなんかない」
「ひどい男でごめんね」
「本当にね。来世なんて言うくらいなら、今……」
 口をつぐむ。ブルースは困ったような顔で笑ったけれど、二人とも、もう何も言わなかった。
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手だけつないでで/ブルマゼ
 満天を喰らう魔王城。拍子抜けするほど近い距離にあるそれを見つめ、魔女と呼ばれた少女が立ち尽くしていた。あまりにひとりぼっちの背中にたまらなくなってそっと抱き締めようとしたけれど、
「手だけつないでて」
 静かな声がそう言うものだから、僕は彼女の小さい手を壊さないように握るしかなかった。
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青/テミ
 血風吹き踊る戦場においてなお彼女は気高い。彼女は勿忘草のスカートを翻し、荒涼の大地に立っている。雲ひとつなく晴れ渡った春の空の瞳で、真っ直ぐに前を見据えている。彼女の輪郭は風に溶けそうなほどに柔らかなのに、彼女は凛とそこにいる。若々しく瑞々しい、きっと彼女は、神の与えた奇跡の娘。
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お願いだから嘘と言って/ルファとミドリ
 アマゾネスの長が結婚するって。まったく能天気ですねアマゾネスは。この戦時にね。浮かれているのを奇襲してやれば良いんじゃないですか。それはエルフの流儀に反するんじゃなくって?それに結婚の情報自体撹乱の為のデマって可能性が。
 それは全部噂だった。ただの噂に私は祈った。嘘であれと。
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誕生日/クロリン
 錫の十字架の裏側に短剣の切っ先を当てた。これで19本めの傷になる。
「なにしてるの?」
 リンだ。
「忘れそうだから」
 返すと、リンはまじまじとその傷を見てウーンと唸った。彼女は難しい顔をして、なんか寂しいなと言う。
「私たちが覚えておくのじゃだめ?」
 だめじゃない、と思った。
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気まぐれ/魔王とギャラック
「ねえギャラック、今日はどこにしよっか」
 少女は古い地図に蝋のような指を滑らせた。尖った爪先がぴたり、止まって、今日の遊び場が決まる。
「ここがいいわ」
 彼女がそこを、その小さな村を選んだのは単なる偶然。
「仰せのままに」
 頭を垂れると無垢な笑い声が聞こえた。今日もまた、焦土がひとつ。
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蛇足/ブロ魔
「殺さないの」
 魔王の言葉に勇者は目をぱちくり、それからニヤッと笑う。
「俺の目的は世界を救うことだからな」
 余計な事はしない。
 それであっさりと魔王に背を向けた。
「あ、それから」
 ふり返る。
「可愛い女を傷つけるのも趣味じゃない」
 今度は魔王が目をぱちくり、
「それこそ、余計よ」
 赤くなった。
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鼓動/テミとマゼンダ
 眠れない夜、目を瞑ってじっとしていると、自分の体が規則的に震えるのだって怖くなる。不随意のそれは私の生命を、人生を、罪を、はっきりと私に突きつける。そういう時、私は決まって目の前で横になっているマゼンダの背中にすり寄る。彼女の命は私なんかとはまるで違う、美しく清廉な音がするから。
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