「エリーゼの将来の夢はお嫁さん、だっけ?」
 クラマ間道行軍、事態は切迫しているがパーティの空気まで硬くてはいけないとジュードがたわいもない話を始めた。
「そ、それは、恥ずかしいので……言わないで、ください」
 エリーゼは本当に恥ずかしがってもじもじとティポをいじくり回す。
「一体誰のお嫁さんになりたいんだ? 気になるなぁー」
 アルヴィンが横槍を入れる。するとそれに気を取られたエリーゼの腕からティポが抜け出してしまった。
「エリーはね、クレイン君のお嫁さんに……モゴゴゴ!」
「だ、だめーっ!!」
 エリーゼは大慌てでティポの口をおさえるが時すでに遅し。ジュードの顔には優しい苦笑が、アルヴィンの顔には意地悪な笑みが浮かんでいた。
「ティポのバカバカ! バホー!」
「バホーッ?!」
 エリーゼは恥ずかしさのあまりティポをぽかぽか殴りつけ、ついでにアルヴィンにあっかんべをして、前列のミラたちの元へ走っていってしまった。残された男二人は顔を見合わせて笑う。
「クレインさんか、一目ぼれかな?」
「アルヴィンよりクレインのがかっこいい、なんて生意気言ってたしなぁ」
「もう、あんまりエリーゼをからかっちゃだめだよ、アルヴィン」
「お姫様がかわいくてつい、な」
「もう……」
 アルヴィンは反省の色もないまま肩をすくめておどける。その軽薄さにジュードは呆れて溜息をついた。

 この後の救出作戦は、ナハティガル王とその参謀ジランドの思惑を挫く初めの一歩となる。しかしその後にさらなる悲劇が待ち受けていることを、彼らは知る由もないのだった。