初日の出





気付けばこっちの時代に来て随分経っていて、初めてのお正月を迎えていた。年末は藩邸のお手伝いで大忙しだったけど、大晦日はゆっくり年を越せた。毎年恒例の初日の出が見たくて元旦の今日は大晦日からずっと起きていた。

部屋の灯りをつけたまま桂さんに借りた書物を読むけど、この時代の文章はさっぱり解らず、パラパラとめくっては閉じ、また開いてはパラパラとめくって閉じての繰り返しだった。夜明けまではまだまだ時間がありそうだったが、手持ち無沙汰なまま時間はゆっくりゆっくりと過ぎて行った。

ふとトイレに行きたくなり立ち上がり襖を開けると、見覚えのある橙色の着物がすぐ目に入った。



「杏絵!」

「しっ、晋作さん!なんで此処に?」

「ん?今ちょうど襖を開けようとしてたんだ、ずっと灯りがついたままだったから気になってな」

「あ、うん。初日の出を見ようと思ってずっと起きてたの」

「初日の出?」

「1年の1番初めに上がる太陽の事だよ」

「そんなもの見て何になるんだ?」



う…っ
それを聞かれると困るんだけど…。晋作さんの頭の上にはクエスチョンマークが沢山浮かんでいた。この時代には初日の出を見るなんてなかったのかな…



「1番初めの太陽だから縁起が良いんじゃないかなぁ…?あたしはよくお願い事をしたりするよ」

「なるほど…、よし!俺も杏絵と初日の出を見る!」

「明日、大事な会合があるんじゃないの?」

「そうだが?」

「…初日の出までずっと起きてて会合中、居眠りしたりしない?」

「寝るかもしれないなっ!」



会合は小五郎に任せれば良い、と付け加える晋作さんは変わらずキラキラした笑顔のままだった。こうなったら晋作さんは言う事を聞かない。…最近、桂さんの気持ちが分かってきた気がするなぁ。


(桂さん、ごめんなさい)


あたしは心の中で桂さんに謝り、小さく溜め息をついた。
しょうがないなぁ、と一応承諾し、とりあえずトイレを済ませて晋作さんとあたしの部屋で日が昇るまで待った。

1人で夜明けを待つよりも、晋作さんと2人の方が時間の流れは断然早く感じた。



藩邸から見える山際が少しずつ明るくなりだす頃、2人で縁側に座り初日の出を待った。藩邸では人が動く気配がしていたけど、晋作さんと初日の出を見ているこの時間はまるで世界に2人だけしかいないような気分だった。

今年1番初めの日が山から顔を出した。



「…綺麗」

「ああ、綺麗だな」

「お願い事しなきゃ」



晋作さんはそっとあたしの右手を握り、自然とあたしも晋作さんの左手を握り返していた。

きっと2人の願いは一緒だよね



この先ずっと

なんて保証はないけど

願わくば…

来年も、再来年も

そのまた次の年も

こうして一緒に

いられますように



「晋作さん、明けましておめでとう」



繋がれた右手から伝わる体温が愛しい。晋作さんは優しく目を細め、今年1番初めの口付けをしてくれた。



「今年もよろしくな、杏絵」



初日の出
(この恋が終わりませんように)


2011.01.03
センニチコウ(終りのない恋)






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