平和島静雄はとてもモテる。

それは彼自身その点に関しては全く興味もなく自覚も無いため、
毎日道で出会う少女達からの手紙をティッシュ配りの何かだと勘違いしていた。
そのため手紙を胸に抱き近寄る少女を彼は片手で制してそこを去る。
恋する少女達にはその様がそっけなくもクールでかっこよく見えてしまうのだ。

故に彼のファンは絶えない。彼の弟であるタレント羽島幽平のファンが、ネットで彼らが兄弟であることを知り密かに幽から静雄に乗り換えるということもたまにあるため、羽島幽平が陽であるならば静雄は陰の存在であると言われていた。

そう、静雄はあくまで陰なのだ。さながら、隠れアイドルといったところか。
そのためかファンの間では「幽のことは言うことなかれ」「囲んだり騒いだりするな」というような暗黙の了解があり、グッズのやりとりもまるで版権アニメを扱うような感じとよく似ていた。
しかしそのおかげで今まで静雄はファンに迷惑をかけられていなかった。

そう、今までは。



「…また手前か……」

フゥ、とタバコを軽く蒸しながら呆れたように静雄は言った。
静雄が住むアパートの、静雄の部屋の前。夜帰宅して赤茶けたドアの横で体育座りをしている男を見た静雄は、内心舌打ちをした。

「おかえりシズちゃん」

足の間に顔を伏せていた男が静雄に気づき、顔を上げ笑いかける。それを見て静雄は今度は隠さずに舌打ちをした。

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