「手前が好きなんだ」

暗い路地裏。人目につないこの場所で、俺は至極真剣な表情をした彼から告白を受けていた。
殺し合いの最中に作った頬の傷が痛い。しかしそんな感覚さえ吹っ飛ぶほどの衝撃。一瞬、自分はこの場から存在が消えたようにさえ感じた。

平和島静雄が、折原臨也に「好きだ」と言った。


(待て待て待て待て!)

ていうか自分たちは先程まで壮絶な殺し合いを繰り広げていたはずだ。なのになんだこの状況は。異常なこの状況に整理のしようがない。頭がついていかない。ああもう、本当、シズちゃんは行動が読めない!!

「…なぁ、返事は」

ポリポリと頭をかいて気恥ずかしそうに目線を反らすシズちゃんに、心中で「何恥ずかしがってんだぁぁぁあ!!」とアッパーかましながら表面上では笑顔で平静を装う。
流石の俺でもこのポーカーフェイスを保つのに精神的に精一杯で、返事なんでできる訳がない。
ていうか普通一日くらい待つだろ。今急かすなよ。自信あんのかよ。

「は…はは、随分高度な冗談だね…」
「っ冗談なんかじゃねぇ!」

シズちゃんに怒りの兆しが見えたので、殴って来るな、と直感的に感じた俺はポケットに忍ばせていたナイフを取り出そうとして、俺は固まった。というか、動けなかった。

「は…?」

俺を殴りつけるために伸ばされたはずのシズちゃんの腕は何故か俺の背中に回っており、片方は俺の後頭部を優しくわしづかんでいた。

…シズちゃんに抱きしめられてる…なう?

「冗談でこんなこと言うかよ…」

耳元で低く掠れた声で囁かれ、ドキッとし…いやいやびっくりしただけだから。
俺といえばもう予想外のことの連続でショート寸前で、それがシズちゃんとこんなことになってるっていうんだから余計だ。

「ちょっ…ちょっ…シズ」
「なぁ手前、俺のこと好きなんだろ」
「…はぁぁあっ?!」

なんでそうなる!そう叫んでやりたかったが、カリ、と耳をはまれて不覚にも言葉にならずに終わった。

「ひっ……ちょ…ほんと冗談キツイって…!」
「だから冗談じゃねぇっつうの。」
「やっ、も、耳舐めんな…!!」

シズちゃんから逃げようと身をよじればよじるほど、シズちゃんは離すまいと腕に力をこめてくる。しかし俺にあまり負担をかけないようにしているようで、苦しさはあるものの痛みはなかった。そんな彼の無駄な気遣いに彼の告白に嘘は無いと悟る。

「クソ…ッ!いい加減離せよ!!」
「手前が素直になったらな」
「…十分本音言ってるよ…」

もうなんていうか、これはもう。
そんな意味の掴めない感覚が俺を侵食していって、もう抵抗しなくてもいいかな、なんて思えてきた。
ハァ、とため息をついて、彼の胸板にポスリと頭を預けた。

「お?なんだやっと素直になるか」
「違うよ…もういいや、なんでも」
「なんだよそれ」
「はぁぁ…君の気持ちは分かったから、離してよ…」

そうけだる気に言えば、意外にもシズちゃんはあっけなく俺を離した。
俺は押さえられていた身体をコキコキと鳴らしながら伸びをした。

「なぁ、てことは、okってことだよな?」
「…へ?」

彼のいきなりのおかしな発言に驚いて彼に顔を向ける。
シズちゃんは見たことのないような笑顔で俺を見ていて、俺は違う意味で驚き、固まった。

「なっ…オイ!!」

背後からシズちゃんの声が聞こえる。
固まった俺はいつの間にか彼に背を向けて走り出していた。愛する人の波をかきわけて、必死に。

何故走る。俺。
足は止めずに俺は自分に語りかけた。
何から逃げる。何が俺を逃げ出させたんだ。

結局俺は新宿の自宅まで全力疾走をし、さすがに上がる息に水を飲もうと台所へ向かった。
蛇口から流れる水を、思わず顔面にぶちあて、服が濡れるのも厭わず何度も何度も顔を洗った。

顔が熱いのは、走ったからだ。決して、シズちゃんなんか。
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