朝の池袋駅はビックリするぐらい人でごった返していて、初めて利用するわけじゃないが少々面食らった。同時に、こんな中彼を探せるのかと不安になる。
いつもはラッシュが始まる前の早朝に新宿駅を利用してゆったりと学校に行くため、正直人混みに慣れているほうではない。出来れば乗りたくないしもう帰りたい。しかしわざわざ自宅から最寄りの新宿駅を利用せずにここまで来たのだ。収穫無しは出来れば避けたい。せめて姿だけでも確認しよう…。
そんな諦め半分な気持ちで乗り込んだ池袋駅3番ホーム2両目は、そんな気持ちをグッと増幅させるくらい混み混みでもう二度と乗ってやるもんかと無性にイライラした。
さっきからサラリーマンの肘かなんかが顔に当たりそうで、それを避けても目の前にまた違う障害物がある。しかもヘタに動けないため避け方は制限されてしまいストレスがどんどん溜まる一方だ。よくもまぁこんな中世間の社会人、学生は毎日通勤通学してられるなと思う。俺なら一日で白髪になりそうだ。
生憎俺の身長はあまり高いほうではなく、吊り革に手を伸ばしても今の状況では背伸びも出来ないし届く気がしない。いつもは届くそれが指先を少し掠めるだけでまたストレスが溜まる感覚にイライラした。

(ッ、苦しい…)

慣れてないためかとてもじゃないがだんだんと呼吸が苦しくなってきて、もう初めのシズちゃんを探すという目的も薄れてきた頃、それは起きた。

「えっ!?」
「こっちだ」

吊り革に伸ばしていた腕を横からグッと引っ張られ、ドアの近くまで無理矢理引きずられた。同時に、前に遠くから聞いた低音の声。
周りの人は迷惑そうにしていたけれど、その時の俺には全く関係なかった。
ただただ今起きたこの奇跡に、ひたすら頬を抓って現実かどうか確かめたくて仕方なかった。

扉に押し付けられ、その人物が俺に覆いかぶさるようにしてその場に安定したあと、ふぅ、と息を吐いて気遣うように俺の顔を覗き込んできた。

「大丈夫か?」
「っえ、あ」金の髪、鳶色の瞳、高い身長、ぶっきらぼうな低い声。

(やばい)

死んじゃう。
スッとした鼻筋だとか痛んでるようだけどふわふわしてそうな金髪だとか意外と睫毛長いだとか浮き出た鎖骨から伸びた男らしい首筋だとか。近くで見なきゃ分からなかった彼の細部までが俺の視界いっぱいに広がって、ああやっぱカッコイイなぁ、なんて、そんな単純なことしか考えられなくなった。
もっとちゃんと御礼だとか、名前だとか、言わなきゃならないのに発せられるのは意味の無い音ばかりで。
平和島、静雄。
目の前の探し求めた彼に、クラリと目眩がした。

「…わりぃ、何もしねぇから、怖がるなよ」

しばらくそんな俺を見ていた彼は、俺が彼を恐がっていると勘違いしたのか困ったように後ろ髪をかいて、安心させようとするためかぽんぽんと頭を撫でてきた。
そんな彼の手は温かで、心地好いと感じると同時にどんどん顔に熱が集まるのがわかる。
とにかく恐がっているわけでないと言わなきゃと煩く鳴る心臓を懸命に押さえ込みながら、震える唇を動かした。

「あ…の、ちが、う…」
「え?」
「び、ビックリしただけっていうか…その…ありがとう…」

言えた!!!!
内心で勢いよくガッツポーズして、けして満点ではないがまぁ合格レベルだろうと自分を自分で褒め讃えた。

「…別にいい」

ぼそっと呟かれた低音はひどく耳に心地よくて、ああやっぱり好き、なんて心の中だけで告白してみる。
俺が周りの人に押されないように庇ってくれてるのにも心がときめいて、さっきとは違った意味で息が出来なくなりそうで、このまま窒息死してもいいと思った。
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