初めて彼を見たのは、高校に入学して一週間くらい経ったときだった。
廊下でぶつかった人に申し訳なさそうに焦ってる所を見たのが最初。そのあと、自分のクラスの入学式からずっと空席だった場所の主ということを知った。なんでも入学式前に派手な喧嘩をしたからだとか。
金の髪が印象的で、背も高いから外人かと思ったけど、見ればれっきとした日本人だった。彼は喧嘩をよくするというけど、学校では何をするというわけでもない。鋭い視線は一見怖いけれど柔らかい優しさも感じさせた。
なんというか、そう。
その整いすぎた容姿だとか、彼の何となく寂しそうな雰囲気だとか、彼を形成する全てに興味が沸いて、とにかく止まらなくなった。

「あー…告れば?」
「っ!そういうんじゃないんだってば!」

ダンッ!
昼休みの教室。いきなり響いた机を叩く音に振り向いたクラスメイトたちと目があう。それに愛想笑いで応えてみせてから、俺はゆっくりと深呼吸をしてから目の前の馬鹿を睨みつけた。「僕には恋する乙女が想い人のことをうっとりと語っているように見えたよ」

そう言ってははっと笑いながら机に広げたお弁当を突くのは、俺の中学から友人の新羅だ。
新羅には、俺があの日見た彼についてよく聞いて貰っている。

「誰が乙女だ。」
「臨也も馬鹿だよねー、早く認めちゃえばいいじゃないか」
「ばっ!……やめろよ、そんなの…」

気持ち、悪い。
ボソリと視線を伏せて呟いた言葉は新羅には十分聞こえていたようで、新羅がはぁーっとわざとらしい深いため息をはいた。はきたいのはこっちだ馬鹿眼鏡。
そう、気持ち悪いのだ。
男なのに男に興味を持って、こんなに深い所まで嵌まってしまって。

本当は新羅に言われなくたって、分かってるんだ。
俺は、『彼』が好きなんだと。
ちょっと前に知った、今日も欠席のクラスメイト。
他のクラスメイトが昼休みの談笑に借りるため、座っているその空席。見つめてみては、ため息をついた。
『平和島静雄』
それが彼の名前ということも、最近知ったばかりなのに。

「…臨也。」

新羅の声は至極真剣な空気を帯びて俺を呼んだ。俺は俯いてそちらを向けずにいる。
そんな俺に、新羅は静かに言った。

「…池袋駅、毎朝6時発の、第3ホーム。2両目」「…は?」
「静雄くんが登校に乗る電車だよ」
「はっ…はぁあっ?!」

ガタタッ!
あまりの衝撃に勢いよく椅子から立ち上がり、音を大いに響かせて椅子がひっくり返った。クラスメイトが困惑の表情でこちらを見ているのに気づき、本日二回目の愛想笑いをしつつ椅子を正し大人しく座った。

「え、なんで、そんなこと、お前が知ってるんだよ!」
「何度か、一緒の電車になったことが…って、睨まなくても、別に何もしてないよ。見かけただけ」

怖い怖い、と苦笑する新羅に、殴りかかりたい衝動と感謝で抱き着きたい衝動が入り混じったよくわからない感情が沸いて、とりあえずお礼を言いながら軽く抓っておいた。

新羅は、明日の朝乗ってみたら、と。
満員電車のなか見つけるのは難しいだとか、そもそも乗っているのか、とか、そんなこと全て頭からすっぽ抜けて、とにかく俺は明日会えるかも、という淡い期待にドキドキしてて仕方なかった。

「新羅、俺さぁ…」
「うん?」


やっぱり、どうしようもなく、好きなんだよ。『シズちゃん』が。



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