「シズちゃん、シャンプー変えた?」
「あ?」

それは休日の昼下がり、俺の家に来た恋人のシズちゃんとソファーでイチャイチャしていたとき。
シズちゃんが甘えるように俺の胸に擦り寄ってきて、俺はそれが可愛くて抱えこむようにクシャ、とシズちゃんの髪を撫でてみせた。
そのとき感じた、違和感。

「変えたでしょ」
「あー…そういや3日前に」

スウ、と吸い込めば俺の知らない匂いがシズちゃんから香ってくる。タバコの匂いと混じって甘い匂いがした。
それが俺にはどうしようもなく不愉快。

「なんで変えたんだよ」
「いてっ!おい止めろ抜ける!」
「シズちゃんなんか毛根死滅しちゃえ」

ぐぐっとシズちゃんの髪をわしづかんでいる手の力を強めてみせた。
シズちゃんが下で身じろぎする度にふわふわと香ったその香りにまた不快感が煽られる。
なんとなく分かってしまった、シズちゃんがシャンプーを変えた理由。あの以前のシャンプーは俺があげた物で、俺とおんなじ物だったのに。

「どうせ弟くんから貰ったんだろ」

そう言えば、シズちゃんは顔をあげてバツの悪そうな顔をした。シズちゃんが弟くんの話しをすると俺の機嫌が悪くなるのを彼は知ってるから、今回のことは言わないつもりだったんだろうけど残念、俺に隠し事なんて100年早い。

「…いい匂いだね」
「あーもう、ったく…悪かったよ…。手前から貰ったの調度切れたから…」
「シズちゃん脱いで」

視線を泳がしていたシズちゃんは、は?と素っ頓狂な声を出して俺を見た。
俺は至極真面目な顔でシズちゃんのシャツを脱がしにかかった。

「ちょ、おま」
「お風呂はいって。シャンプーしてきて」
「…あ?」
「俺のシャンプー使って」

今のシズちゃんにキスもなにもしなくない。
そう言い放てば、シズちゃんは急いで風呂場に行った。ちょっと言い過ぎだったけど、心境的には嘘ではない。

「…はぁ…」

俺は一人になったソファーで小さく足を抱えて座ると、グラグラとする嫉妬心に小さくため息をついた。
シズちゃんが好き。大好き。愛してる。だから誰にも渡したくない。シズちゃんに他人の影が見えるなんて、シズちゃんと恋人になった途端に留め金の消えた俺の嫉妬心が許さない。
シズちゃんの着てるバーテン服だってほんとは嫌だ。だけどそれだけは仕方ないって頑張って気にしないようにしている。
こんなのちょっと行き過ぎてる、とまたため息をつく。それが分かる客観性くらい持ってるよ。
ああでもやっぱり、シズちゃんは俺の物であって欲しいし、俺もシズちゃんの物でありたい。二人で居るときくらいは、他人を感じないで過ごしたい。

「臨也」

ぺたり、と裸足の足音が聞こえて、顔をそちらに向ければ、上半身は裸でズボンを纏っただけのシズちゃんがそこにいた。
ホカホカとしたシズちゃんは「これでいいか?」と俺に近寄って頭を撫でてきた。
ふわりと香った香りは確かに俺とおんなじ香りで、安心した。ぎゅうっとシズちゃんに抱き着くと、シズちゃんは優しくまた頭を撫でてくれた。

「シズちゃんのばか…」

そう言って擦り寄って、やっと満足して二人で過ごせるのだと思うと、密かに口角を上げた。
シズちゃんは頭を撫でながら、バカじゃねー、とふて腐れたように言ってきた。そんなシズちゃんにクスリと笑って、俺は再びシズちゃんを抱き寄せてキスをした。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -