・甘すぎ注意
・もうお前ら誰状態
・クリスマスは明日です。今日はイブです



誰かと過ごすクリスマスなんて久しぶりだ、と言った臨也に、俺はただ頷いた。
俺もだと言うことを恥じたのだ。

「ね、シズちゃん」
「あ?」
「今日仕事先でケーキを貰ってさ。お得意さんからだから安全だと思うよ。食べない?」
「あー…食う」
そう言えば、わかったと言って臨也はソファから立ち上がって台所へ向かう。
隣の席が空席になったことで室内はしんと静まり、俺の緊張が増したので、目の前のデスクからリモコンを取り上げて適当にチャンネルを回した。

―イブの今日行われました、聖辺ルリさんのクリスマスコンサートは全席満席で―
―こちらでは、クリスマス当日ということで、間もなくツリ―点灯が行われ―
―クリスマス特別スペシャル、続いてはクリスマスに関する街中インタビューを―

ぶちり。
どこもかしこも、クリスマスの特集ばかりでつまらない、同じようなものばかりやっている。
そもそもクリスマスっていうのはキリスト教の話じゃなかったっけ。なんてことを考えながら用済みになったリモコンをデスクに戻した。

先ほどから心臓がばくばくとうるさい、握りこんだ手のひらが汗でじわじわと湿ってきている。
何故俺がこんなにも緊張しているのか。
それには相応の理由があるのだ。

そろそろ緊張で俺の頭がショートするんじゃないかと思いだした頃、臨也が1ホールのショートケーキを皿にのせて運んできた。
真っ白いクリームに苺が載せられていて、真ん中には砂糖菓子のサンタクロース等の飾りつけが施されている。
ぼったくり紛いのこいつに仕事を頼むような奴からの物だ、どこかお高いところのケーキなのだろう。

「シズちゃん、ケーキ切っちゃっていい?」
「おー」
「んー、でもこれ明らかに二人じゃ食べきれないよね」
「…流石に1ホールはな」
「仕方ない、あの双子共にでもあげるかなー」
臨也はうーんと唸って、包丁を持ったまま頬に手を当て考え込んでいる。
「お前、秘書雇ったとか言ってなかったっけか?」
「あぁあぁ、いいのいいの波江さんは。彼女は弟のことで精いっぱいだから俺からのケーキなんて絶対食う余裕ないね」
「…そうなのか」
普通の秘書と雇い主の関係がわからないものだから、こいつらのこの関係がおかしいのか正常なのか知る術は俺にはない。

ていうか、今の俺にこそそんなことを考えている余裕はない筈だ。
何せ今日俺は、かなり勇気の要るあることをすると決めたのだから。

「でもなぁ、折角の貰いものをあいつらにあげるって言うのもな…」

皿の上に包丁を置き、携帯をいじりながらソファに再び座った臨也に対して、俺は呟くように言った。

「いや別に今日食べきらなくてもいいんじゃねぇの」
「へ?あ、あぁ、持って帰ればいいのか」
「そうじゃねぇ。何日かかけて食べりゃいいんだろが」
「…?そりゃ、最近の冷蔵庫だと数日おいてても全然美味しいしね…?うん、いいと思うけど、でもそれだとシズちゃん明日も明後日も俺んち来ることになるよ。仕事あるんじゃないの?」
「仕事には行く。でも、ここにも来る。ってゆーか、ここから行く」
「あ、今日泊ってくの?」
「違う、臨也、違ぇって」

駄目だ俺。こんな遠まわしな言い方じゃこいつに伝わる訳がねぇ。
てゆーか現段階で絶対絶対伝わってねぇ。
現に今臨也はきょとんとした顔で俺を見ている。

あぁくそ、かわいい。

「臨也」
「…なに?」

俺はポケットから小さな箱を取り出した。
ビロード生地で出来たような、手のひらに収まるサイズの小箱には、綺麗な細いリボンで装飾されている。

先ほどから酷くうるさい心臓の音を押さえつけるように、すぅ、と俺は息を吸った。




「俺と結婚してくれ」





「シズちゃんって、結構ロマンチストだったんだねぇ」
「……うっせ」
「…あ、ほらシズちゃん。今ちょうど25日になった」
「そうかよ」
メリークリスマス。
そう笑う臨也の薬指では、銀色の指輪が光っていた。


Happy Christmas!
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