「………の」
「え?」

何かがぼそぼそと聞こえて、思わず瞼をあげた。
何を言っているのか。
どうせ聞いても後悔するだけだろうに、俺は聞き返してしまったのだ。
部屋が暗いせいで表情がよく見えない、ましてや今シズちゃんの顔はちょうど影になっていて、全然わからないのだ。

「……お前、馬鹿じゃねーの」

「…は?」
「お前、俺が何言ってたのか聞いてたか?」
「え?は?」

何を言っているのか全然わからない
頭がくらくらとして、何を言っているのかわからない。
含まれた意味なんて読みとれない。
それほどまでに、俺の頭は混乱していたのだ。

そんな俺をシズちゃんは一瞥して、馬鹿にするようにため息をついた。
こんな状況にも関わらず、さすがの俺もかちんとくる。
ぎろりと睨むとシズちゃんは気づいたようで、眉をひそめられた。

「何、何なの」
「…あ?」
「わかんないよ、全然わかんない」
「……臨也」

何でか知らないけど、だんだん目がしらが熱くなってくる。
何でこんな、絶対に避けられないようなタイミングで涙がにじむんだ。
威勢よく睨んでしまったために、今更そらすこともできない。
よって、泣き顔を見られないほかはない。

「…もういやだ、全然わからない。何言いたいのかわかんないよ。嫌いなら嫌いでいいから、こんなことしないでよ、もうやだ」
「臨也、」
「俺が可哀想なの?男なんか好きになったから?だから?シズちゃんにも同情心なんてあったんだね?でももういいから」
「、おい」
「嫌いなままでいいから、も、関わんないで…」

一度崩壊してしまった涙腺は、そう簡単には戻らない。
勢いよくぼろぼろとこぼれおちていく涙も、両手をふさがれている今は隠すすべもなく。むしろ逆に、隠す気さえなかった。
もう終わってしまえ。
全部全部、終わりにしてしまえ。
そんな気がでてきたのだ。

涙が口に入って、けほけほと軽くむせる。
横を向いて頬をシーツに押し付けた。

シズちゃんの返事はさっきからない。けど、どんな表情が見る勇気もない。
涙が徐々にひいてくると急にこの空気がいたたまれなくなって、よけい見づらくなってくる。

視線が痛い、怖い。
そう思うのなんて久しぶりだった。

「…おい」
「……何」
「言いたいことはそれだけか」
「……はぁ?」
「もう言うことはないな」
言い残すことはないかって、何それ。どこの死刑宣言だ。

恐る恐る視線をずらしてシズちゃんを見ようとする。
が、それは叶わなかった。




体が温かいものに包まれている。
肌の温度が布を一枚通して伝わってくる。
抱きしめられていることがわかった。
上半身だけ無理やりおこされている体勢なのでかなり辛い。

脳内がパンクしそうな程にぐるぐると渦巻いて、耳に微かに触れる金髪がまたくすぐったくてぞくぞくする。
そのまま耳元で小さく名前を呼ばれて、体がピクリと反応した。

「…臨也」

これは夢なのだろうか。
シズちゃんが俺を抱きしめて、名前を呼んでくれている。
こんな夢なら覚めなくていいのに。

流石に体勢がきつすぎて、小さく声をもらした。
「……シズちゃ、ん」
「…なんだ」
「痛い。こし、痛い」
「……あ」
先ほど使われた腰部分が無理やりの体勢に悲鳴をあげている。
それを報告すると、抱きしめられたままゆっくりとまた再び押し倒された。
抱きしめられたままベッドの上に寝転ぶだとか、背中側と正面、両方からの熱で体が熱くて仕方がない。

それを悟ったのかわからないが、シズちゃんはゆっくりと体を離してくれた。
顔と顔との距離が近いのは相変わらず同じで、逆に顔を見せなきゃならない分今の方が恥ずかしいかもしれない。

「臨也…」
「なに」
「お前、さっき言わなきゃわかんねぇって言ったよな」
「……うん」

「好きだ」

いつの間にか外されていた両手でゆっくりと頬を包まれて、三回目のキスをされた。


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