真剣妹















コンコンと、

控えめなノック音が生徒会長室に響く。

室内に居る生徒会長はと言うと、

苛々とした表情で、勢いよく扉を開けてみせた。


「やっほ、『お兄ちゃん』」

「!

 ルカ!

 なんだよ来るなら来るって先に言えよ!

 そうしたら美味しい紅茶を用意してたのにな…」

「そんなのお兄ちゃんに悪いよ。

 とりあえず中に入ってもいい?」


勿論だと満面の笑みを浮かべてそう言えば、

風紀委員長はお邪魔しますと控えめに言ってから、

生徒会長室へと足を踏み入れた。





「で?今日は何の用で来たんだ?」

「……」


コクリと、喉が上下に動く。

風紀委員長は目の前に出された紅茶の味を

ゆっくりと単能すると、

口元からカップを離して、こう話を切り出した。




「風花…さん?の、事なんだけど………」




「……!」


その瞬間、生徒会長の顔からは笑みがストンと消え、

その変わりに小さなため息をついてみせた。


「……あいつの事か」

「そう。

 お兄ちゃん達、一体何をあの人に吹きこんだの?」

「………」


…暫くの間、両者は見つめ合う。

何かを探る様な、窺う様な……そんな視線。


「………、ハァ。

 昨日の夕方、そいつの両親から電話がかかってきたんだよ」



そこからは、

あの生徒会長の推理と目撃者からの証言から成り立つ、

『推測』。

その推測を黙って聞いていた風紀委員長だったが、

ふと、唐突に、

口を開いてみせた。


「…風花さんは、

 お兄ちゃんやライに問い詰められた時に

 何も答えなかったの?」

「あぁ、だんんまりだったぜ」


そう言って肩をすくめる生徒会長。


「……それってさ、もしかして、」


そんな実の兄の事を静かに見つめた後、

風紀委員長は、





「…答えなかったんじゃなくって、

 『答える事が出来なかった』んじゃないの………?」





 






「…あ、あのえっと……」

「ん?どうした?」

「あの……ロビン、さん。

 その……ここが風紀委員長室で、

 間違いないんですよね?」

「ああ、そうだぞ」

「でもこれ………」


そっと、壁を撫でる。

そこには壁に書かれた扉の絵しかなく、

風花は戸惑った様な表情を顔に浮かべた。


「あ、ていうかオレの事は

 普通に『ロビン』って呼んでくれよ!

 オレもお前と一緒で高校一年生だからよ」

「あ…じゃあ私の事も、普通の呼び捨てで…」

「ああ、じゃあ遠慮なく呼ばせてもらうぞ」


そう言うと、

ロビンはスッと壁に書かれている扉を触った。


「これは……ルカが許可した者じゃあなければ

 開けられない仕組みなんだ。

 オレは風紀委員会の副委員長だから

 業務用の鍵を貰ってるんだけど……、な!」


――がちゃり、と。

鍵の開く様な音がしたと思ったら、

いつの間にか風花は

自分の体が先ほど居た廊下から、

どこかの室内に移動している事に気付いた。


「あ、あれ!?いつの間に!?」

「これこそまさに、ルカ流の施錠魔法だ!

 そうだろう?ルカ」

「!」


ハッと正面に目を向ければ、

そこにはあの生徒会長の様に

堂々と椅子に腰かける風紀委員長が居て。

風花は、背筋がしっかり伸びるのが自分でも分かる。


もう、覚悟を決めなくちゃ。

この人ならば、信用が出来る。


そう心の中で呟くと、

意を決したかの様な強い眼差しで、

風紀委員長の事を見つめ返した。









「まず、昨日の学校帰りの事から

 話してくれない?風花さん」

「………」


カチャリと。

目の前に置かれる可愛らしいカップ。


「…私、先輩に会ったんです」

「それは前に居た学校の先輩?」

「はい、天塚先輩……て言います」

「……天塚先輩、ね」


ちらりと風紀委員長はロビンの方を盗み見る。


「………」


その意図に気付いたロビンは

小さく首を縦に振る。


「それで、

 天塚先輩が私に紹介したい人が居るって……」

「…紹介したい人?

 それはもしかして、貴女の頭を殴った人の事?」

「……!」


びくりと。体が大袈裟に揺れる。


「…はい。本当に痛かったんです。

 本当に……」


よく見ると、膝の上にきちんと乗せられた拳が

小さく震えている。


「…その人は、なんていう人?」

「…『ルーク』と名乗っていました」

「…ルーク、ねぇ……

 ここらじゃ聞かない名前よね、ロビン」

「あぁ。

 もしかして偽名とかじゃないのか?

 その可能性も十分ありえるぜ」

「……確かに。

 その人はどういう外見をしていたの?風花さん」

「………赤い髪をした、男の子でした。

 それとどこかの……学校の制服を着てました」


その言葉を聞いた風紀委員長は、

眉をひそめて

自分の記憶の中にある多くの学生達との照合を

始めていた。


「『赤の髪』に、『学校の制服』……

 つまりは『どこかの学生』って所ね……。

 うちの学校の学生を襲う位なんだから、

 青の学園と対立している所の幹部か…何かか……」

「…オレは思い当たる奴は居ねーな。

 そっちはどうだ?ルカ」

「…風紀委員会は、

 あんまり縄張り争いに好戦的じゃないからね。

 後で生徒会の誰かに聞いてみよう」

「………」


風花は、目の前に置かれたカップに何気なく視線を向ける。

可愛いお花の書かれたそのカップは、

明らかに来客用の物だった。


「『ローズヒップ』を淹れてみたの。

 女の子は皆、お肌とかを気にするでしょ?

 それはきっと貴女も例外じゃないと思って」

「…ローズヒップ…。

 …風紀委員長は、紅茶が好きなんですか?」

「周りの人が皆コーヒー好きだから…

 …なんだかその影響を受けちゃって」


クスリと笑う風紀委員長は、

自らの前にも置かれているカップに

そっと口元を寄せた。


「おいおい風花!

 こいつの贅沢っぷりは半端じゃないからな〜……!

 聞いて驚くなよ!」


風紀委員長が紅茶を飲んでいるからと言って

少し調子に乗ったロビンは、

目を丸くさせる風花に堂々とこう言い放った。


「紅茶の茶葉なんて

 一流の物から更に厳選した物を。

 カップは事前に温めておいた物を…ってな。

 これこそ正真正銘の紅茶好きのお嬢様だよ!

 こっちはそれで何度苦労した事か」


はぁぁと大袈裟に溜息をつくロビンを、

ギロリと睨みつける風紀委員長。

しかし、否定しないという事は、

本人も少々自覚しているのだろう。


「…へ〜そうなんだ……。

 …あ、でもこの紅茶凄く美味しいですよ!」

「…ありがとう風花さん」


そう言うと、

風紀委員長は優雅な仕草で紅茶を置き、

再び話を戻したのだった。








「それで、

 貴女はそのルークという少年に攫われた。

 どこに連れていかれたのか、分かる?」

「………」


昨日の一連の、核心。

それこそ正に、風花の一番恐怖している所。


「…そ、れは、」


息を吸ったり吐いたりするスピードが、少し速くなる。


「…言いたくなければ、別に、言わなくてもいいけど……」


その些細な様子だけれども、

すぐに気付いた風紀委員長がさかさず

風花に別の道を作ってやる。


それは、先ほど風花に問い詰めた生徒会長が

唯一やらなかった事。

生徒会長という座をつく実の兄、ルイには

『優しさ』『情』『甘さ』等が

存在しないのだ。

それが余り関わりのない人間になら尚更だ。

(しかし、自分の妹にだけは例外だが)


しかし、

実の妹であるルカは、違う。

不器用ながらも、非常にそういう物には敏感なのだ。



「…いえ、全て話します。

 風紀委員長は……『信用』できる人ですから」

「……でも本当に信用するに値する人か、

 分からないよ?」


いつになく悪戯な笑みを浮かべる風紀委員長に、

風花はふわりと優しげな笑みを浮かべてみせた。


「そうですね……実を言うと、

 私。風紀委員長の事が、」


そういうと、

いつになく真剣な眼差しで、風花は風紀委員長の事を見つめた。





「好き…なんです、とっても」





「…え?」


「出会った時から感じてました…

 『ああ、これは運命≠ネんだ!』と!!」


そういうと、

だらりと赤い鼻血を出した風花が

ずいっと身を乗り出した。


「そんなボンキュッボンな体型をしてて……

 しかもそんな可愛い顔してて……

 それでいて、中高合同風紀委員会委員長?

 このギャップ!

 このギャップ萌えが

 私を妄想の楽園に連れていくぅぅぅうううッ!!!!」


「…また私変なスイッチ押しちゃったかも」

「…まあ、気にしないのが一番じゃね?」

「…そうかもね。

 というかパッと見まともな人に見えるのに…」

「ああ…この変わり様……

 人ってこんなに変わるんだなぁ……」


未だによく分からない単語を出しながら、

一人絶叫している風花を遠い目で見つめる二人。


そんな中、

フルフルと拳を震わせる噂の『あの人』が乱入してくるまで、

後十秒。








 ▼後書きのコーナー

 「ギャップ萌えぇぇぇぇぇええ!
  萌え死ぬ!もう萌え死ぬ!!
  こんなギャップ萌えは
  二次元でしかあり得ないと思ってたけど…
  まさか三次元でお目にかかれる日が
  ついに来るとはぁああ!!
  風紀委員長に『萌え・萌え・キュン(はーと)』って
  やってもらいたぁぁああい!
  ぷ…ぷぎゃぁぁぁぁあああ\(^p^)/」

 ↑二人が遠い目をしている中で、
  こんな事を言っていた風花。
  ついにあの人が…登場ですよ!





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