水晶が生成する過程で、周囲にある別の物質を内部に取り込む事があります。
幻想的な風景画閉じ込められたかのうにも見えるため「庭園水晶」とも呼ばれます。
大自然が作り出す芸術そのものです。
何気なく見ていた雑誌の特集の一文。
思わずふっと笑った。
不純物のないそれと比べたらどうしても不完全なのに、別の見方で見ると芸術品ってやつになる。
「不思議だな。」
「どうしたの?」
「あ、先輩。」
「わぁ綺麗だね。」
「こうゆうの、好きですか?」
「わからないけど、嫌いじゃないよ。」
覗き込む夜久先輩の肩から、ひとふさ甘栗色の髪の毛が香りを纏ってサラリと落ちた。
部活の時は邪魔になるからとその長い髪を束ねているから、おろしてる姿がとても新鮮に映る。
最近はめっきり居心地悪くなった射場も部活の始まる前のこの時間はとても静かで、また違う顔を見せる。
雪の降る冬に、夜空を見上げてるような感じに似てる気がする。
シンと静まり返った宇宙のような孤独感。
「隣どうぞ?座ってください。」
「ありがとう。あ、これってなんだか・・・。」
「なんですか?」
「な、なんでもない。」
「気になります。」
「えっと・・・」
「言ってくれないと、抱きしめますよ?」
瞬時にして火照る頬。
じわりじわりとその間合いを詰めていくと、その分だけ後ろに下がる。
「い、今の梓くんにあげたいなって思って!」
「ちぇ、言わなくても良かったのに。」
攻防線で若干しわの出来た雑誌のそれに指さす。
困難の克服、物事の興隆と再生、着実な進歩、成長・育成・・・etc
「っふ、確かに。」
僕はおそらく人生初めてのスランプに出くわしてる。
出来ないことなど今までなくて、どんなことでも難なくこなしてた。
だから対処に困ってるのも事実。
でも、だからこそ思い通りにならない面白さがあるのも、事実。
できれば先輩の前ではカッコよく居たいけど、そうも言ってられないほど実は深刻で。
いくら放っても的中しない矢に、少しばかり最近はあきらめすら感じるようになっていた。
時間が、ない。
「ごめんね?」
「どうして謝るんですか?」
「一番頑張ってるのは、梓君だから。」
「なんでもないようにしてくれた方が、僕は嬉しいですよ?」
情けないな。
でも、その一言で申し訳なさそうに俯いてた先輩が顔を上げて、安心したように柔らかく笑った。
うん、大丈夫。
まだ僕は先輩を笑顔にすることできる。
「あ!梓君!」
「はい。」
「ほら!ここ見て!」
そこは僕は先ほど見ていた文面の続き。
水晶の成長が一旦止まったり、緩やかになったときに表面についているものがつき、再び成長を始める。
中には、暗い場所でみると、夜空の星のようにキラキラして見えるものもある。
「ね!いろんな人に出会って、いろんなものを取り込もうとしてるんだね。ただ今その途中なだけで。」
大丈夫と言って先輩はとても強気に、そして怖いくらい綺麗に微笑むと、夏の暑い雲が太陽を隠して、一瞬暗くなり目が眩んだ。
緩やかに軋む音が聞こえる気がする。
あと少し。
Garden Crystal
「僕、先輩を取り込みたいな。」
そうしたら何か変われる気がするんです。
何かそのきらきらしたものに。
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2012/3/5
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