At the same speed
甘い甘いお菓子の様に、麻酔のように一度味わったら手放させない。
きっとそうなるだろうと、簡単にわかってしまうことが悲しい。
だからといって薄っぺらい、言葉だけの繋がりが怖くない訳じゃない。
先輩の、速度で、進んで行きたい。
ただ純粋にそう思う。
そりゃ、少しくらいは味見させてもらいますけど。
早朝の弓道場は、風が揺らす木の音と、布が触れ合う音と。
「・・・宮地先輩が居たら、怒られますね。」
「そう、だね。」
頬を赤らめて、困ったように笑う先輩。
返事を待ってから、もう一度唇を奪った。
そうすると、簡単にも「先輩」という主体で考えていた思考が「自分本位」に飲み込まれしまいそうになる。
手を伸ばせばするりと触れることの出来る無防備の体。
あぁ、触りたいなぁ。
キスをすれば、そればかりが膨らんで、誤摩化すようにまたキスをする。
その場しのぎだけの繋がりは、余計に先輩をほしがることになることを身をもって知った。
始めから足りはしないと分かっていたのに。
いわゆる、悪循環ってやつ、ですか。
「僕は宮地先輩を見習った方が良いんでしょうか?」
「え?どうして?」
「漢って感じですから。僕はどうやら、そうでもないみたいで。」
「わ、私には梓君はちゃんとした男の人だよ・・・。」
先輩の気持ちが毎日1ミリとちょっとだけでも近づくなら。
「少し、ニュアンス違いますけど、先輩が男として僕を見てくれているのは、嬉しいです。」
「そ、そなの?」
僕はこの苦行も乗り切ってみせますから、いつか先輩を全部くださいね。
ーーー
2012/5/6
梓くんの器の大きさは尋常じゃないと思う。
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