二十歳を過ぎてお酒が飲めるようになったけど、まだまだひよっこなので、お酒を飲める雰囲気で十分に酔える安上がりなお年頃。
覚えたてのお酒が大人になった気にさせてくれて、楽しくてたまらない。
何かと理由をつけて、月一で集まる俺たちは、メンツはその日の都合によって変わるけど、遊ぶことに関しては全力の精神はまだ根強く出席率は効率を覚えた授業よりも良かった。

その中でも柿野とは別の意味で極まれに変なスイッチが入るのが一人。

「梨本君。」
「ん?」
「どーしてなしもとくんは、そうひょうひょーとしてるの」
「げ、夜久眼がふわってる・・・。」
「ねぇ、聞いてる?」

答えを求める割には、持っていた唐揚げを俺の口に放り込む。
その眼はいつもより何倍にも蕩けそうになってて、チェーン店のぱさついた唐揚げは口の中の水分を吸ってなかなか喉を通り過ぎない。

「俺、飄々として無いと思うけど。」
「してる。」
「どのへんが?」
「全部。」
「それ答えになってないよーな。」

オレンジ色した液体を夜久はするりと飲み込んだ。
折れてしまいそうな細い喉が揺れて、俺のも反射的に生唾を飲む。
なんだか色っぽい気がするのは眼の錯覚、眼の錯覚。

「だって梨本君言ったでしょう?」
「何を。」
「私のことす」
「ちょ!ストップ!」

夜久の口を抑えて、言葉を遮る。
飲みの席と言うこともあって、各々盛り上がり誰も他を気にする様な様子も無く、朝の教室みたいにここでは言葉がまるごとBGMと解けていき、他の話に耳を傾けている人が居ない。

ほっとため息をつく。
二人ならなんとでも好きなようにさせるけど、生憎二人きりというわけではない。

片手に飲み物、片手に夜久の手を取り座敷の隅で丸くなって、声のトーンを下げた。

「なぁにー。」
「その言葉は言ってません。」
「言ったでしょう?」
「言ってない。で、何をそんなに怒ってんですかね、うちの姫は。」
「梨本君がしてくれないから。」
「なにを?」
「ちゅーとか」

手にしている粟田が残したビールが思わず口から吹き出るかと思った。
相変わらず、何考えてるんだか、特にこのゆらゆら揺れてる夜久の思考は計り知れない。

「夜久、してほしいの?」
「ふふふ、どーだと思うー?」
「わからないから聞いてるんだけど、それ聞いちゃうか。」
「だって、私も梨本君よくわからないんだもん。」
「それは夜久が俺のこと好きかどうかわからないから、しないの。まだ。」
「まだ?」
「そう、まだ。いつかするつもり。だから、俺頑張ってるつもりですけど?」
「んー・・・伝わらないなぁ。」
「お前って子は!何さらりとキツいことを・・・!多分、夜久が鈍感だからだと思います!」
「そんなこと無い。」
「あるある。」
「えー、そんなこと無いよー。」
「じゃぁ言うけど、俺も夜久にちゅーしたいですよ。俺も男ですから。」
「ふふふ。そぉお?」

答えがお気に召したのか、夜久はご機嫌に笑う。
手に持ったグラスが夜久の気持ちを表すようにいたずらにカロンと氷が歌った。
振り回されてるなぁ、俺。

「そうですよ。で、俺のこと好きなの?」
「んー、わからない。」
「えぇー。何その、持ち上げてから、落とす的な。」
「ちゅーしたらわかるかもしれない、よね?」
「まー大胆。」
「知らなかったのー?」
「知りませーん。」

この小悪魔をどうしてくれよう。
このまま放置しても、誰が二次災害に合うかどうかなんて考えたくもない。

どうかその理解不可能な行動は俺だけにして欲しい。

「ちゅーしていいの?」

先ほどよりも近づいて、周りにばれないようにコートを頭から覆い、準備万端の姿勢を取ってから覗き込む。
漏れて入ってくる光で潤んだ夜久の瞳がチラチラと反射した。

「や、やっぱりだめ。」

視界が暗転したことで、夜久の気持ちが小さくなったのか、はたまた自分の言った大変なことをやっと理解したのか、アルコールの赤みとちょっと違う熱を持つ頬。
両手で口元を抑えたけど、一度その気になったものはそう簡単には止まることは出来ないし、夜久も酒に踊らされてるとはいえ、ちょっとはそれを理解するべきだ。

「もー遅い。」
「なし・・・っ」

手を振りはらい、鼻と鼻が微かに触れ、逃げることが出来ないように形のいい夜久の後頭部を右手で抑えて、艶のある唇に触れる。
初めてでも、自然と動くもんなんだなと、自分の中に雄が居ることをはっきり自覚した。

ジュースまがいのアルコールよりも数段に強いものが一気に脳みそに流れ込んできて、眼が回りそうだ。

「何か、わかった?」
「・・・ちっとも。」
「なんならもう一回する?」
「もう、しない・・・。」
「正直残念だけど、よし、それでいい。男にはそういうこと言ったら危険ですよ、姫。」
「梨本君以外は、言わない、よ。」

敵はなかなか手強い。
同義語や類義語を使うけど、核心はまだ隠す夜久。
わかりやすいから、俺の都合の良い風に捉えれば言わなくてもわかるけど、でもほら勝負だから。


知っているけど、教えることはできない


「じゃぁ、さ。なんでそう夜久が俺に言ったか、なんで俺が夜久にキスしたか、考えてみて。俺の持ってる答えが夜久と一緒だったら良いなって思うよ。」

出来るだけ心に居座れるように、離れる前に惚けた夜久のおでこにキスをした。
触れたいと俺の体が本能が嘆くのはたったひとりだけ。
ひとりだけなんだよ、夜久。



ーーー
2012/4/17




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