花の咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ





心臓ってこんなに自己主張するんだと、他人事のように自分の体の変化を見てみないふりをした。
もちろんそれは俺だけじゃなくて、隣に居る白鳥にも同じことで、いつもは煩い程の奴が言葉少なくただ小さくなってる。
それは白鳥の場合は受け入れるタイプだから。
そんでもって、受け止めきれないタイプだから。

顔にしっかりと「緊張」という文字が書いてって、見ているこっちの方が固くなりそうで視線をずらした。

「いぬかいいいいいいー。」

が、捕まった。
正直、弱い人間が居ると、強くなるタイプの人間なもんで、そのヘタレっぷりは俺にとってはいい効果だったりする。
強くっていっても、ふりだけど。
ふりが出来るだけでも十分だ。

「おう。」
「・・・緊張する。」
「だな。」
「緊張する・・・緊張するっ緊張する!きんちょうするうううううう!!!」

壊れたラジオの様に同じこと繰り返す白鳥に苦笑い。

ま、そりゃそうだろうな。
俺たち初めての大会だし。緊張しない方がおかしいと思う。それが普通。

気を紛らわしてるんだろうけど、周りの目が痛いんだ、白鳥。

「おおおお俺、息出来ない!どうしよう!」
「叫んでたら息吐くだけだから、あたまりだろーしらとりー。」

おおおおと良くわからない唸りを発する白鳥に何年か前に流行った炭酸飲料のCMキャラクターを彷彿させる。

「夜久、いないな。」
「へ?あれ?ほんとだ。」
「俺、ちょっと見てくるわ。」
「おおおおおおれも!」
「いいけど白鳥こけたりすんな・・・よ・・・ってああ・・・。」

勢い良く立ち上がると同時に袴の裾を踏んで盛大に転がる白鳥。
こんなに勢いよく転ぶ青少年は久しぶりに見た、気がする。
期待を裏切らない白鳥に哀れで涙が出てくる。

「何もなかったように立ち上がって、そこに座ってるのが一番だと思うぞ・・・。」
「・・・・。」

白鳥にそっと耳打ちして側を離れる。
他校生が、でかい白鳥を避けて歩いていく様を横目に、外の空気を吸おうと外へ繋がる入り口へ向かうと、階段の隅っこに夜久の頭が見えた。

ちょっとその場を離れる口実だったが、言ったからには連れてこないとな。

「やひさー・・・あ?」
「い、ぬかいくん。」

へへと覇気のない笑顔を見せた夜久は白鳥と同じようにその文字が顔に書かれいた。

「お前もか・・・。」
「も?」
「いや、白鳥がすごいきんー」
「あ、言わないで!」
「は?」
「その言葉言ったら、最後な気がする。」
「最後ってなんだ。」
「分からないけど、駄目。」
「・・・緊張してんなああああ!」
「わあああ!言った!犬飼君のばかあああ!」
「はっはっは。甘い!ほれ、死ぬわけじゃあるまいし、落ち着けー。」

頭をかかえて項垂れた夜久の髪が肩から落ちて、そのうなじがあわらになって少しぎょっとした。
あぁ、それは、目に毒だ。

「犬飼君は緊張しないの?」
「するさ。」
「嘘。」
「嘘ついてどーすんだよー。」
「だってそうゆう風に見えない・・・。」
「見せてないだけなんデス。」
「ほんと?」
「皆、自分の中に弱虫は居るんだよ。だーれでも。」
「自分の中に、弱虫だけしか居なかったら?」
「その弱虫とどう向き合うかが大事。」
「・・・負けそう。」
「大丈夫だよ。あぁーほら、いい物見せてやるから、行こうぜ。」
「いいもの?」

夜久の手を引く。
さっきの白鳥を見てたから、夜久が立ち上がるを待ってから歩き出した。
さすがに女子を転ばす訳にはいかない。
向かう先はただ一つ。
アイツのもとへ。

「ほれ。」
「え?白鳥君?そのおでこ・・・どうしたの?」
「犬飼ぃ・・・やひさあああ・・・。」

先ほどよりも小さくうずくまってる白鳥をご紹介。
俺たちの顔を見て安心したのか、うっうっと嗚咽を漏らして、泣いていた。
鼻水をすする音が聞こえる。これは、本気だ。

「・・・ふふ。」
「や”ひ”さ”?」
「ご、ごめ・・・っ」

視線をそらす夜久に何が起こっているのか分からず、頭にクエッションマークがつく白鳥。

「しらとりー、今すごーく役に立ってるぞー。」
「まじか!・・・で、なんで?」
「夜久が、笑ってる。」

そのぐしゃぐしゃになった顔と、さっきこけて出来た額のたんこぶ。
いい具合に夜久のツボを刺激してるようだ。

「そ、そのおでこどうしたの・・・?」

涙目の夜久。
笑うの必死にこらえてるんだろう。

「転んだ・・・その、裾ふんずけて・・・。」
「ひ、冷やさなくて平気?」
「大丈夫!」

時折、夜久の声が裏返るのを気にせず、心配してもらってる喜びからか笑顔で答える白鳥。
やひさーがんばれー。
しらとりー、やっぱちょっとずれてるぞー。

「犬飼君。」
「おー。」
「ありがとう・・・白鳥君には悪いけど、落ち着いた。」
「だろ?」
「うん。」
「体固くなったときは笑うのが一番だからなー。」
「そうだね!」

タイミングよく、女子の試合開始の呼びかけが始まる。
ありがとうと元気よく俺と白鳥に言って、向かって行った。

なんとかなるから、笑って行ってこい。

そう心でエールを送る。

「ほれ!夜久が笑ってたんだから、白鳥も笑っとけ!」
「お、おう!」

すべては自分をこれから作り上げる一部になる。
だからこの逃げたくなるようなプレッシャーも、楽しむ努力をしようじゃないか。

たとえ今上手くいかなくても、きっとそれが次に繋がる。
白鳥も、俺も、夜久も。



そして大きな花が咲く




ーーー
2012/3/29

まだ知らない1年の夏。




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