「いいか、夜久。良く聞け。」
ずいっと距離を詰めた梨本君。
視界いっぱい、きんいろになってチカチカする。
ちょっと早く終わった私たちはカフェテラスの隅っこで、
大所帯ゆえ席を確保する為に皆の講義が終わるのを待ってる、そんなちょっとした時間。
先日の件から、ちょっとだけ変わった彼との距離。
でも、そんなのお構いなしに、フラットな状態の梨本君。
あれは夢だったんじゃないかと、思うくらい。
ほんとうに、いつもどおり。
「なーに?」
「俺は、サッカーがそこそこ出来る。」
「知ってるよ?」
「あとはなー直ちゃん太鼓判のリーダー気質!」
「う、うん。」
言わんとしていることが分からず、ただ聞き役に回る。
「まぁ、出来るとは言わないが、適度に勉強出来る。身長も適度にある!」
「ね、ねぇ?どうしたの?」
チシャ猫みたい目を細めてに、ニカと笑った。
梨本君のことを考えるようになってから、当たり前だと思っていたことが
彼を好きなところであると思うようになってきたのも同時で
不覚にも心臓が飛び跳ねた。
「俺を、お前に売り込んでる。」
「売り込み・・・。」
「そうだとも。電気屋でさ、この商品はここがだめです、とか、ここが欠点ですって言って売る店員は居ないだろ?」
「そうだけど。」
手のひらでちょいちょいと呼ぶから、私は耳を近づける。
梨本君は外には漏れないように口元を丁寧に手で隠して、言った。
「それと、意外と一途。」
息が耳にかかり、背筋がぞわぞわして思わずのけぞる。
勢いが良すぎてイスから落ちそうになるのを、梨本君が腕を掴んて助けてくれたけど
まるで逃さないって言ってるみたいに、その手は力強い。
「へー、耳弱いのか。」
「わ、ざと・・・?!」
「いんや?不可抗力。」
「嘘!」
「ほーんとだって。」
「だって顔笑ってるもん!」
「ぶはは!だってお前の顔が赤いんだもんっ。」
「ま、まねしないで・・・!」
「俺、夜久が顔赤くなるの好きだぞ。俺、頑張ってる!って感じ。」
「話が、ずれてる・・・。」
「じゃぁ、夜久降参する?」
「し、しないってば!梨本君なんて知らない!」
「まぁまぁ、怒るなってー。」
ぽんぽんと背中を叩く梨本君の顔は、謝罪なんて口にしてる表情なんかじゃなくって
いつものいたずらっ子の表情した梨本君に最上級の笑顔されたらもう背を向けるしかないじゃない。
許したら負けなんだから。
そう、これは勝負なんでしょう?。
「・・・。」
「やーひさー。」
「梨本君。」
「ん?」
「・・・意外と・・・なの?」
何が勝敗をわけるか、ルールなんてわからないけど、ここで何か言わないと
負けた気持ちになるのは火を見るより明らかで。
だけど勇気を振り絞って出した言葉は、残念なことに尻つぼみしてその威力を半減させてしまった。
まるで経験がありませんって言ってるようなものだなぁ・・・。
そのとおりなんだけど、ね。
恥ずかしいと思いながら肩越しに見たのは豆鉄砲喰らった鳩みたいな顔をしてから、くしゃっと破綻する梨本君。
さらりといっしょに揺れるのはきんいろの髪。
一緒にほっぺたが緩んでいくのが分かる。
ずるいなぁ、そのかお。
「かなり一途!」
Parallel Lines
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2012/3/24
どきどきするって気持ちいいね。
ねぇ、もっと一緒に遊ぼ?
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