星に願いを






夏の日の夜。
犬飼の提案で、屋上庭園で天体観測。

お祭りの夜みたいにわくわくする。
非日常的な感覚が、気持ちを高揚させる。

そんな結構高いテンションで集まった俺たちだけど
星がやっぱり好きで、ふとした瞬間、言葉をなくして星に見入る。

笑って、星見て、騒いで、黙って、食べて、で、また星を見る。
そんな繰り返しをしながら、この特別な夜を過ごす、心地よい時間。

また何度目かの沈黙で、俺は隣に居る夜久を見てた。
普段は無意味に直視は意識してできないけど、天体観測の名目のもと人工的な灯りがないから
誰がどこを見てるかなんて、ちっとも気にしてない。
だから、俺は夜久を穴が空くほど眺めてた。
目は口程に言うと、ちょっとだけ期待して信じて。


眼が光ってる。
なんで?

夜久の瞳に月明かりが反射しているように見える。

あ、そうか、泣いてるんだ。

泣いてる、そう思ったら、いてもたってもいられなくて
あんぐり口を開けてる二人の目を盗み、夜久の手を引いた。

「しら・・・とりくん?」

空を仰いでかろうじてとどまってた涙は、ぽろりと落ちた。
頬を伝うのではなく、本当に涙が落ちたんだ。

「なんで・・・泣いてんの?」
「星が、きれいだったから。」

そういうと、顔が歪むでもなく、恥じるわけでもなく、ただ次々と粒が落ちる。

ぽろり ぽろり

何粒かの涙は頬を伝って落ちていった。

本当はこの涙は真珠で、泡になって消えちゃうのかもしれない。
でも、夜久は海じゃなくて、きっと夜空に溶けていくんだ。

心地の良い夜風が足下から攫うように吹いて、ぞっとした。
長い前髪が煽られ、露になったまっすぐな瞳を直視したとき
妄想をリアルに感じさせるくらい、夜久は綺麗だったから。

「やっ夜久!」
「え?」

思わず、夜久を引き寄せて頭上で鎮座する月から隠すように腕の中に納める。

「どしたの?」
「夜久が、消えちゃうんじゃないかと思って・・・。」
「私が?」

小さな夜久が腕の中で笑った。

「白鳥君が捕まえてくれたから、消えたりしないよ。」

ぎゅっと心臓を鷲掴み。

・・・俺のこと見てくれないかな。

なんでこんなに優しく言うんだろうか。
俺のことで焦ってくれないのかな。
ドキドキしてくれないかな。

これが犬飼だったらー
これが部長や宮地や木ノ瀬だったらー

そんな無い物ねだりが始まって、むくむくと俺の劣等感を煽っていく。
それだけ夜久という存在は近いけど遠いということ。

彼女の髪はあまいミルクティーのいろ
彼女の声はピアノみたいな優しいこえ
手足は長くて細くてお人形さんみたい
眼は大きくそれを縁取る長い睫毛
口元はふっくらおいしそうな桃色で
頬はリンゴみたいに赤くなってる方が俺は好き

そして、いつも笑顔で強いおんなのこ。


夜久のつむじに気づかれないようにキスをした。

俺に見せてよ。
弱いとこ、泣いてるとこ、ドキドキしてるとこ、怒ってるとこ、全部全部。
そんで、俺のこと好きになってー。





ーーー
2012/3/14

安心しちゃうんだよね。





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