背骨にキス


飲みのもを取りに行く、と
席を外したそのとき、視界の隅の方から音がした。

にゃー

なんとも気の抜けた猫のデジタル音。
ゆっくり振り向くと、リビンクから少し離れたソファーの上で
携帯を落としそうになっている月子が見える。
手の中に収まるとすぐさまそれを隠す。

「なに、今の。メール?」
「ち、違うよ。」
「じゃぁ、何かな?答えられない?」

両手に持っていたマグカップを近くのテーブルに置いた。
これでも自由だから、君を追いつめることなんて簡単なことなんだよ。
わかってるかな?
本当はこの座ってるソファーから動けないように、膝の上に足を乗せるでも、いっそ簡単に押し倒しても良かったんだけど、少しだけ泳がせてあげる。

「何、黙ってるのかな?僕に虐められたいの?」
「虐められたくないけど、言っても笑われると・・・思う・・・の。」

じりじりと距離を詰めて、そんない広くない部屋では追いつめるのは簡単で、月子の背中はすぐに壁。
覆い隠すように片手をついてさらに逃げ場を無くす。
空いている手でしどろもどろ、小さい声でうつむいて話す月子の顎を持ち上げる。
息がかかる、キスも簡単な距離まで近づくと、呼吸を止めたのが分かった。

「い、郁。」
「今更、初めてでもないのに、君は学習しないんだね。それも、そそるからいいけど。」

眉尻が下がり、困ったような泣きそうな顔。
頬は熱を帯び、長い睫毛は奥の瞳を隠すように伏し目がちで、ふっくらした口元は何か言いたそうにうっすらと開いて濡れているように見える。

リップクリームかな。
どう見ても、誘っているようにしか、見えないんだけど。

「どうして、ほしい?」

唇をすり抜けて、耳元で囁くと、逆毛のたった子猫みたいに全身に緊張が張りつめいるのが良くわかる。
僕は、反応して、ちゃんと答えてくれる、返してくれるこの敏感な体が好きだ。
もちろんいろんな意味で。

「郁っ」
「何?白状する気になった?」

月子は自らの腕を伸ばして、つまり僕を少し押しのけて、安全な距離を作ってから
少し沈黙した後、絶対笑わない?と念押しされて、もちろんと答えると
恥ずかしそうに出した携帯からは、僕の横顔。
思いの他その表情は穏やかだった。

明日からまたいつ会えるかわからないから、写真が欲しかったの、ごめんなさい。と
彼女は頭を下げた。
あまり気持ちのいいものじゃないだろうからとも言って、先ほどの隠し撮り写真は
あっさりとそのメモリから消えると、少しだけ名残惜しそうに月子は携帯を眺めていた。

「写真欲しかったの?」
「う、ん。」
「それなら言ってくれればいいのに。」
「郁って写真嫌いそうだから。」
「嫌いだよ。でも月子がお願いするなら一緒に取ってあげる。」
「本当?!ありがとう!」
「一つ約束してくれる?」
「約束?」
「待ち受け画面にして欲しいな。僕と君との写真を。恋人らしいでしょ?」
「・・・なんか悪いかお、して・・・る?」

笑顔で答える。
もちろん沈黙は肯定。

「キス、しようか。」
「・・・っ!」

これできっと彼女は学校で携帯を開くことは出来なくなるだろう。
開けないからといって、僕以外の誰かからのメールも電話もなくなるわけじゃないけど
返信や対応といった月子が占領される時間は今より少なくできるかもしれない。
我ながら子供染みてるけど、それくらい君が居ないと僕が僕で居られないんだよ。
僕が今までしてきたことは、自分に還ってきて、不安を煽るんだ。
だから、もっともっと、愛を。

「次会うときまで、いい子にしててね。」

今日は大人のキスを君にあげる。


ーーー
2012/3/8

初めての恋は独占欲まみれ





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