かなり長い時間を一緒に過ごしてきたがする。
付かず離れずそんな距離で。
もどかしいとも思うが、それもらしいとすら思っていた。
俺たちの在り方なのかな、と。
気づけばもうカウントダウンが始まってて
どこか諦めたように見ていた。
そうすると、期待してのかと自分の強欲さを知る。

そうか、俺、期待してたのか。あさましいな。

どこか寒さは人を自虐的にする気がする。

「ふぁ、寒いねぇ。」

弓道場の戸締りをして、夜久が出てくると
少し赤くなった手を口元に寄せて白い息を吐く。
それはすぐ空気に溶けたて、言葉まで飲み込まれた気がした。

もうあたりは暗く、星が綺麗に瞬いている。
俺はその手をとり、ポケットに入れた。

「げ。相変わらず、死んだように冷めぇなー。」
「女の子はだいたい冷え性だと思うよ?」

3年が経ち、俺たちの在り方も少し変った。
こうやって手を取ることが、あまり抵抗がなくなった。
また夜久も同じように、それを自然に受け入れるようになった。

うぬぼれでなければ、嫌い、と思っていないと思う。
だけど俺はずるくて臆病だから、未だ大事なことを伝えられない。
今言えば、コイツが居づらくなるんじゃないか
どうせ言うならば、消えられるようにぎりぎりがいいんじゃないか
踏み込む時じゃないと思い続けて
そう逃げて続けていた。

引退してからは必然的に今までよりも共有する時間が少なくなれば、
どちらかともなくこうやって射場に訪れては
陽が短くなりあたりが暗くなれば、寮まで一緒に帰る。
この短い距離、僅かな時間を幾重にも重ねた。
それももう数えるほどしか、ない。

「卒業、だなー。」
「そうだねぇ。なんかあっとゆーまだったなぁ。」
「時間は早いのは充実した証拠か、年寄りだな。」
「犬飼君は早かった?」
「まぁな。」
「じゃぁ、犬飼君はおじいちゃんだね。」
「ジジくさくて悪かったな。夜久こそ、最近腰が痛いだの寒いだの年寄り臭い。」
「それは寝違えただけで・・・私は楽しかったから、違います。」

ほら、楽しい時間は早くすぎるって・・・なんだっけ、そうゆうの、あるでしょ?と
月明かりが灯った瞳を少し細めて笑った。
赤いマフラーに白い肌が、夜久月子という儚さをより一層際立たせる。
こんなもんを明るいところで直視できない。
儚そうに見えて、とんでもなく強い。
そうゆうでたらめなところが、理性をもってかれる。
俺はコイツの隣に居ていいのかと。
何も言わない俺がそれを望むのは卑怯だと分かっているけど
願わずにはいられない。
終わりの時を望んで、先延ばしにしておきながら。

「終わりかー。」
「え?」
「弓道部引退の時も思ったけど、今度は卒業だもんなー。」
「そう・・・だね。」
「夜久とも・・・。」

夜久ともなんだ。
何も始まってないのに、終わりなんてあるのか。
何が終わるんだろうか。

「犬飼君?」

甘栗色のカーテンの奥の瞳に不安の色が見える。
今日はどうしてこんなに月明かりがまぶしいんだろう。
見えなければ、見て見ぬふりができるのに。
空いてる手で目にかかる長い前髪を分ける。
頬がみるみる赤らむのがわかる。
拒絶はしない。
こんなにも、応えてくれているのに。

「ど、どしたの?」

目をそらさずに、まっすぐ見てくる。
射抜かれてしまいそうだ。

「犬飼君」

返事を待たずに夜久は続ける。
その表情は優しい。

「きっと、今もたくさん考えてるでしょう?」
「ハズレ。」
「あれ?ほんとう?」
「正直、今、お前でいっぱいだよ。」

俺が何を考えているか計ろうと懸命に見た目が
一瞬にして揺れる。
水を含んだビー玉がゆらゆらと。

「い、いぬかいくんて、そゆうこと言うんだ。」
「まーな。」
「ふぅん。」

零れそうな涙は痛いほど綺麗で。

「思い違いだったらいいの・・・だいじょうぶ、だよ。」

本当に
儚そうに見えて、強いんだ、コイツ。

「夜久」



白線を飛び越えて



冷たい空気をめいいっぱい肺に吸い込んで
言葉が溶けてしまわないように。
どうか、届くように。
伝えるよ。

俺、夜久が好きだ。


ーーー
2012/3/6





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