積み木遊び
 



春夏秋冬
季節がひとまわりしても
アイツは皆のお姫様だった。

相変わらず
お姫様だのマドンナなど
特別扱いする声が聞こえるけど
俺からしたら、クラッシャー夜久
これが一番しっくりする。

関わる人間を壊しては作り変える。
俺が知ってる身近な人間で例を挙げると
まず木ノ瀬。

自分以外は他人と割り切るような天才気質にアイツが
夏を境に弓道も夜久にも興味を持ち始めた。
他人が自分と同じ人間なんだと、上辺じゃなく本質を見始めた。

それと青空。
表情を崩さない能面が
ときどき人間臭さが出てきた。
いい顔をするようになった。

二人に何があったか知らないが
おそらく今までの価値観をぶっこしたんじゃないか。

恐らくはほんの一部。
だけど、アイツはいろんなところでその能力を惜しみなく発揮してる。

でも
この一年で夜久自体が変わったことは
人に頼らなくなった。
もともとあまり甘えてくる奴じゃないが
それがすごく下手になったというか
頑なになった気がする。
一人で出来ることはなんでもしようとするし
一人で出来るように努力してる。

人はいいように作り替えて、自分のことを振り返らない。

「もっと楽になっていいと思うんだがなー。」
「え?」
「お前だよ、お・ま・え!」

課題を片付けるという手伝いの名目で図書館で勤勉中。
突然の独り言に夜久を顔を上げた。
さらりと髪がひとふさ肩から落ちる。

思いのほか距離が近く、腕を伸ばして
夜久の額を指を弾くと、痛い!とグーが飛んでくる。

俺はそれをよけて、顔をずいっと近づけると
コイツは決まって顔を赤くして、動きが止まる。

「はっはっは。秘儀・夜久封じ」
「なにそれ・・・。」

膨らんだ頬が小動物を彷彿させる。
保護意欲を誘っておきながら、簡単にさせてくれない。
男泣かせだと思う。

「で、楽ってなあに?」
「お前はもっと頼っていいと思うんだけど。」
「十分助けてもらってるよ。」
「全然助けてないですけどー。」
「犬飼君には、ね。」
「ちげーねー」
「ふふ。」

そういうと、参考文献を取ろうとする立ち上がった夜久は
頭上より高い場所に陳列されたそれ目指して腕を伸ばし背伸びをする。

「こうゆうこと、も。いつからお前そんなに可愛くなくなったんだー?」
「あ、ありがと。可愛くないはいつものことですよーだ。」

むっとしたのか、すぐ席についてぱらぱらと本をめくる。
俺はそのまま本棚に体を預ける。

「私ね、今までいろんな人に助けてもらってここに居たの。それを知らなかったから。」

罪悪感

そんな顔をして夜久は言った。
それが何だというんだ。
所詮、返してもらおうと思ってやってることはただのエゴだ。
そのエゴでコイツを苦しめていい訳がない。
誰だ、そうやってコイツを縛り付けたやつは。

「ほんとうは、ずっと昔から守ってくれてる人がいて・・・でもわたし知らなかったの。でも、知らなかったで、済まないのね?」

本当にお姫様なのかもしれないな。
幼馴染連中以外で、知らないところで守り続けていたなんて
並大抵のことじゃ出来ない。

もちろん俺には無理。
絶対無理。

「どこぞの王子様よ、それ。」
「ふふ、内緒。」
「で、今の話と関係あるわけ?」
「ん、と、そうゆうことをちゃんと知っておきなさいって教えてくれた人が居たの。だから・・・」
「だから?それでなんでも一人でやろうとしてるわけか?」
「せめて出来ることは自分で出来るようになろうかな・・・って」
「だー!つまりはお前はそれを知ってればいいわけだろ?これから、助けてくれた人にはありがとうって言えばいいだけじゃねぇか。違うか?」
「・・・違くない。けど・・・。」
「けど、なんだ。今のお前・・・面白くない。」

結局のところ、大義名分を振りかざして構いたいのは、俺の都合。
一人でやりたいのは、夜久の都合。
どっかいいとこで折り合いつけよう。
これじゃぁ、お互いしんどい。
そうだろ?
お前、十分頑張ってきただろ?
そろそろ許してやれよ。

幼なじみやその王子様のように、とか規格外の時間は望まないから
俺にも少しだけでいいから、お前と共有するものをくれないか。

一方的に関係のない俺が責めてるだけなのに
何も言わずに、大きな涙をひとつふたつ零した。

下校時間が近い図書室は静かで
ぽたりぽたりと滴の落ちる音が聞こえてきそうだ。

「誰もお前を責めたりしないよ。」
「え?」
「・・・嬉しいんだよ。夜久の力になれると。」

今にも零れそうな涙をためて、ゆらゆらした目でこっちを見る。
さすがにそれは直視できなくて、視線は外す。

「男はバカなんだ。バカで申し訳ないけど、お前が喜ばせてやってくれ。」
「犬飼君も・・・嬉しいの?」
「俺ぇ?!まぁ少しくらいはな。」

どうしてこそに俺が引き合いに出されたかを
深く考えたら負けな気がした。



ーーー
2012/3/6

犬飼はいろいろと見ている人。




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