階段の踊り場は校庭を見渡せる絶景ポイントで、それを知っていた俺は昼休みになるたびそこを占領する。
両手で作った双眼鏡で、端から端まで校庭をウォッチング。
最近の日課。
「なに探してんだ」
「バネさん」
「ほー、見つかったか」
「いや、まだ」
「どこ行ったんだろうな」
「本当にどこに」
ぐるりと腹筋をよじって振り返る。
「いた」
「そうか、良かったな」
「うい」
「で、なんか用か」
「いや、全然」
「なんだそりゃ」
はははと大声で笑うバネさん。
この笑顔、良いなと思う。やっぱりバネさんだ。
バネさんは踊り場の壁に寄りかかった。
俺もそれを真似る。
「バネさんはどうしてここに居る」
「お前を探して来たんだ」
「部活の話か」
バネさんは落ち着きなく、爪先でトントンと床を蹴っている。
「いや、違うな」
リズムを刻むでもなく、不規則に爪先が床を蹴る。言葉を選んでいるように思える。
俺は黙ってその爪先を見ていた。
しばらく黙っていたバネさんは、ようやく文章を組み立てたのか、大きく息を吸って顔を上げた。
しかし、口から出たのは
「やっぱり、また今度だな」
期待外れなものだった。
階段を降りていくバネさんを見送って、俺は首を傾げる。
なんか、変だなバネさん。
まあいいかと思って教室に戻った。
そんなに気にすることじゃないと勝手に決めていた。
全く考えもしなかった。
バネさんの悩みの種が、
俺だったなんて。