チュンチュン、と鳥の囀りが窓の外から聞こえ、ぱちりと目を開けた裕は全身に走る鈍痛に眉間に皺を寄せながらも、今何時だ。といつも枕元に置いている携帯を寝ぼけ眼なまま探したが、そこで、そういや携帯ないんだった。とようやく思い出し、むくりと起き上がった。

 誰かが探してくれるかも。という咄嗟の判断でそっと店を出る際にコンクリートの割れ目から生えている柔らかい雑草の方にぽんっと携帯を投げた裕は、あの時の自分の判断にナイスすぎだな俺。なんて自画自賛しつつ、けれどこれでは時間も分からない。とボリボリ頭を掻きつつテレビをぴっと付ける。
 そうすれば左上に時刻が表示されていて、ちょうどお昼の二時が過ぎた頃だと分かり、どんだけ寝てたん。と昨夜の爆睡具合に相当疲労が溜まってたんだな。と裕は苦笑しながら、のそりとベッドから起き上がった。

 それから店に向かうため痛む体を押し準備をし鞄を探したが鞄もなく、あの店に置き忘れてきたのだろうと気付いた裕はこれじゃあ電車にも乗れんやん。と顔を青ざめさせたが、まぁタクシー捕まえて、お店に着いたら瑛辺りに立て替えてもらおう。と楽観的に考えながら家を後にした。

 そしてタクシーを拾い、お店まで辿り着いた裕は運転手にちょっと待っててください。と頭を下げながら店の中へと入り、仮眠室へと向かった。
 そこにはちょうど二部が終わり仮眠室で休んでいる皆がいて、滅多にお昼になど来ない裕の登場と、昨日の一件のあとまだ会っていなかったため驚いた様子で石やんや誠也、瑛が駆け寄り、

「裕!」
「昨日有さんから話は聞いたけど、大丈夫なの?」
「唇の端切れてるじゃん!」

 なんて騒ぎ立て、その心配が滲む表情に、ごめんな、心配かけて。俺は全然大丈夫だから。なんてへらりと笑ったあと、それより今は、と瑛に向かって、

「瑛、悪ぃ! 金貸してくれ!」

 なんていつもの悪ノリする時のように声を掛けた。



 それから瑛にタクシー代を立て替えてもらった裕を囲みスタッフルームに集まった皆はガヤガヤと遠巻きに裕を見つめていて、誠也、石やん、瑛はそんな皆の想いを代表するよう、

「ほんとに大丈夫なの?」

 と声を掛けた。
 もうすっかりお馴染みとなったくたびれた深紅のソファに腰かけたまま、大丈夫だって。と裕が笑っていれば、珍しく騒がしいスタッフルームをちらりと覗いた有人が、なんで来てんの! と驚きの声をあげながら輪に加わった。

 で、どうしてあんな事になったんだ。
 と昨日の経緯を聞かれたがやはり裕は蓮の代わりにとは言わず、俺の態度が悪かったんだよ。と嘘を付き、内心半分はそれも本当だと思うし。なんてへらりと笑う。
 そうしていれば、まぁ納得はしていないものの理解はしたのか皆、とりあえず無事で良かった。と胸を撫で下ろし、それから石やんが、そういえば! と立ち上がっては自分のロッカーから裕の携帯を取り出した。

「あー! 俺の携帯! 石やんが見つけてくれたん?」
「うん」
「そっか。さんきゅ」
「ん。にしても昨日の蓮の剣幕にはまぁじびっくりした」
「確かに、あんな蓮滅多に見れないからなぁ」

 なんて石やんと誠也が話しているのを聞き、駆けつけてくれた蓮の、しかしあの感情ひとつない冷たい顔で容赦なく暴力を振るっていた姿を思い出した裕は、様々な気持ちが沸き起こるまま俯いてしまった。

 そんな裕の様子に、一応有人から何があったのか他の人より詳しく聞いているらしい誠也達がハッとしたように顔を見合せ、ばか。と瑛が二人を小突く。
 そんな重苦しい雰囲気に有人が小さく溜め息を吐いたが一度席を外し、それから戻ってきた有人は手に裕のショルダーバッグを持っていた。

「あ、これ、……有さんが預かってくれてたの?」
「違う」
「え?」
「……さっき、カイが持ってきたんだよ」

 そうぽつりと言った有人の声にざわっと場が揺らぎ、誠也が有人に詰め寄っては、いつの間に。と表情を厳しくさせる。

「いつ来てたの」
「二部営業してる時にこっそり」
「なんで俺に声かけてくれなかったの」
「馬鹿。ナンバーワンがそう簡単に抜けれるわけないでしょ」
「……何しに、」

 未だ表情をひきつらせた誠也が小さくそう呟けば、その誠也をじっと見たあと、

「ロッカーの荷物、取りにだよ」

 とはっきり告げる有人。
 その言葉にばっと自身の隣だったカイのロッカーを見た誠也が慌ててカイのロッカーを開け、それから中に何もないのを見ては、項垂れた。


 それが何を意味するのか。

 そんな事ぐらいもうこの場に居るメンバーは知っていて、誠也のその背を見て皆が固唾を飲むなか、

「……カイが最後に言った言葉、なんだと思う。誠也」

 と有人が声を掛ける。
 しかしその問いに答えようともせず無言を貫く誠也に、

「……頑張れよナンバーワン、だってさ」

 なんて有人が、カイに言われた言葉を告げた。


 この一連の騒動を詫びるでもなく、今までの対立に関する何かを言うでもなく、静かにただその一言を告げたというカイ。
 端から聞けば最後の最後までなんてふてぶてしいと思われるだろうが、しかし誠也にとっては、その一言で十分だった。

 有人から告げられたそのカイの言葉に、カイのロッカーの前で皆が居るにも関わらずずびずびと鼻を啜り嗚咽を溢す誠也に裕が眉を下げ悲しげに見ていれば、

「……どういう経緯で知り合ったのか知らないけど誠也がホストになるって決めたのはカイさんがきっかけだったらしい。それに新人だった頃面倒見てくれたのもカイさんなんだって。俺達を誘うときも、すっげぇ先輩がいんだよ。って凄く嬉しそうに話しててさ。その誠也の楽しそうな顔で俺達は誘われるがままここで働いてるみたいなもんだから。誠也にとってはやっぱり、大事な人だったんだと思う」

 そう横から瑛がぽつりと呟き、その言葉に裕はそうだったのか。とこの騒動のせいでカイ達が居なくなってしまった罪悪感に苛まれていれば、

「……まぁ言い逃げにも程があるし、最後に誰の顔も見ずに辞めるずるい奴には制裁が必要だと思ってさ、ちょうどスタッフが居なくて困ってたらしい僕が以前勤めてたホストクラブのマネージャーに連絡してやったよ。一応今回の件も話したけどそれでもいいからっていうんで、そこで一から出直して、ちゃんとその店で一位になったその時に自分の口から誠也にそう言えって、突っぱねてやった」

 なんてわざと軽い口調で言う有人に、誠也が涙でぐしゃぐしゃになった顔で振り返る。
 その不細工すぎる顔に、

「うちだってかつかつなのに四人も一気にいなくなったんだから泣いてる場合じゃないんだよ、ナンバーワン!」

 と有人が渇を入れれば、色々な感情が込み上げているだろう誠也はそれでも乱暴に袖で涙を拭って、笑ってみせた。

「それから裕、裕が気にする事でもないし、蓮が取った行動も良いとは言えないけど、それでも結局はカイ達の弱さのせいだからね。裕は胸張って、堂々としてればいい」

 と、なんとも言いがたい顔をしていた裕のケアをするよう有人が笑い、しかし、

「まぁ蓮にはちょっとだけお灸を据えるけど」

 と呟けば、誠也がぶはっと吹き出した。


 その柔くなった空気に裕がホッとした表情をし、横にいた石やんが誠也に向かって、

「泣くなよせいや〜。ほら、有さんか瑛のおっぱいでも揉んで元気だしなよ」

 なんて言いながら有人と瑛の腕を掴み生け贄だと捧げれば、

「なんでだよ!」
「はぁ!? 意味わかんないんだけど! なんで俺と有さんなん!?」

 と両方から総スカンを食らい、バシバシと叩かれ痛い痛い! と叫ぶ石やんがそれでも、

「いいじゃん別に! 減るもんじゃないし! 疲れてる奴に、おっぱい揉む? って言うのが最近巷で流行ってるし!! 俺はいやだけど!!」

 なんて言い訳にもならぬ言葉を吐き、それに誠也が、

「癒されてーー!! もうこうなったら男の乳でもいい! 触らせろーー!! うおぉーー!!」

 なんて両手をわきわきとさせながら有人と瑛に詰めより、やめろや! と逃げ回る二人を追いかけ回す。
 それになぜか石やんも一緒になって追いかけ始め、部屋は阿鼻叫喚と爆笑の渦に包まれ、裕も痛む体に顔を歪ませつつ、それでも耐えきれない。と声を上げて笑った。






 そんなほんわかとした空気が流れるなか、気が付けばそろそろ一部が始まる時間となっていて、皆が泣き腫らした誠也の顔に、これで店出るのかよと笑ったが、いいんだよ! と歯を見せて快活に誠也が笑った。
 その顔を見て、強いなぁ。と裕が感心していれば、ふいに隣に来た有人が裕は大人しく帰りなさい。と促し、それから誰かに電話を掛けたかと思うと、

「あ、蓮? 休みの日にごめんね。って言った後になんなんだけど、今からお店来てくれない? 裕が来ててさ、送ってあげてよ」

 なんて言っては電話を切ったので、裕は一人でも帰れるのに。と気まずそうな顔をしたまま有人に抗議の声をあげたが、

「んー、でもなんか裕、今蓮にあんま会いたくないって思ってない? それずるずる続くとボタンの掛け違いみたいになって後々取り返しつかなくなるよ。……カイと誠也みたいにさ。だから二人の間の事は、ちゃんと二人で早めに解決しなよ」

 と有人は笑うばかりで、裕は顔を曇らせつつ、それでも何も言わなかった。

 そんな気まずそうな裕をよそに皆は準備で部屋を出ていき、一人きりになった裕はソワソワとしながら部屋で蓮を待った。
 そして電話をもらってから十五分もせずにお店に来た蓮が慌ただしくスタッフルームへとやってきては、

「怪我治ってないのになんでいるの……送るから帰るよ」

 と裕を見ては溜め息を吐き、ほら、立てる? と手を差し出してきて、そのどこか呆れが滲むそれでも優しい声に裕は小さくごめん。と呟いてはその手をそっと取った。



 それからお店の外に車を停めていた蓮に促されるまま助手席に乗った裕が運転席へと乗り込んだ蓮をちらりと見たが、蓮は黙り込んだまま何も言わなくて、その何を考えているのか読めない横顔に唇を真一文字に結んだ裕はそれでもと有人の言葉を思い出し心を奮い立たせ、

「……送ってもらう前に、行きてぇとこあんだけど、」

 と声を掛ける。
 それに、え、と裕を見る蓮。
 その顔には笑顔は浮かんでなくて、なんだか昨日からずっと蓮の笑顔を見てねぇなぁ。なんて思った裕は胸に走る痛みに睫毛の先を小さく震わせながら、

「公園、行きたい。この間のとこ。……蓮と、ちゃんと話したい」

 とぽつり、呟く。
 その言葉にヒュッと喉を鳴らした蓮がそれでも、分かった。と呟いては公園へと車を走らせた。



 そして数分もしないうちに目的地へと着き、バタン。と車の扉を閉め、公園へとやってきた裕と蓮。
 もう季節は夏を通り越し秋になりかけていて、公園に着く頃には辺りはもう暗く、そのせいか夕方の六時を過ぎたばかりだというのに公園には子どもどころか誰の姿もなかった。

 ブランコに、滑り台。それから鉄棒にペンギンの形をした遊具がある公園はこの間と同じよう静かに街灯に照らされていて、裕はブランコではなくペンギンの形をしたドームのようなトンネルのような遊具へと向かい、中へと潜り込んだ。
 その後に続いた蓮が長い体をしんどそうに曲げながらも、裕、体大丈夫なの? と心配そうに声を掛けてくる。
 その声がコンクリート壁に反響しこもり、なんだか秘密基地のような場所だなと思いつつ、裕は、平気。と呟きながら体育座りをした。

 しん、と一気に静まり返ったその場の空気に居心地悪そうな裕がちらりと蓮を見やり、

「……なんで、怒ってんの」

 と小さく呟けば、裕を見ることなく目の前の水色の壁を見ていた蓮が裕を見たあと、

「なんで裕はあんな事になったの」

 なんてやはり笑顔ひとつない顔で、しかし逆に問いかけてくる。
 その顔に裕は小さく唇を歪ませ、俺の態度が、と嘘を付こうとしたが、

「違うよね。おおかた俺の事が原因なんだよね? じゃないと最近俺にきてた嫌がらせがいきなり裕に戻ったりしないでしょ」

 とばっさり切り捨てられ、裕はうぐっと言葉を詰めらせてしまった。

 そんな裕の態度にやっぱり。と溜め息を吐いた蓮が、言うまでずっと待つから。と言外に圧をかけてくるので、

「……お前の事、殴るかとか言ってたから、それで、」

 と言いたくなかった真相を当の本人に白状してしまった裕は瞳を潤ませ、俯く。

 ああ、言いたくなかったのに。なんでこんな雰囲気になってんだ。

 なんて痛む鼻をずずっと啜れば、

「それで、じゃあ自分が代わりにって思ったの? なんでそんな事するの。そんな事されて、俺が喜ぶとでも思ったの」

 と強めに問い質す蓮に裕はカチンときてしまい、じゃあ言わせてもらうけど。と睨み返した。

「それは蓮もやん。なんで俺が聞いたときに嘘付いたんだよ? それにわざとあの時皆が居る前で誠也に一位争いの発言して、自分に矛先が行くよう仕向けたんだろ? そんな事して、俺が喜ぶとでも思ったのかよ!」

 と怒りと良く分からない感情で裕が堪らずぽろりと涙を一粒溢せば、それにハッとしたように目を見開かせた蓮が顔を歪ませ、それでも、

「今回の件は危険度が違いすぎるじゃん」

 と表情を曇らせた。

 それに、……一緒だわ。と裕が呟けば、蓮はがしがしと頭を掻いたあと、

「泣かないでよ……。ごめん」

 なんて罰が悪そうに呟き、あーもう。と一度声を発したかと思うと、

「ごめん。元はといえば俺の配慮不足だよね。なんかもう不甲斐なくて苛立ってた。……でも、」

 と言葉を切ったあと、裕を見ては泣きそうな顔をして腕を引く蓮。
 突然腕を取られ、強く強く抱きすくめられた裕が呆けていれば、

「……それでも、あの時ほんとに怖かった。裕がいなくなっちゃったらどうしようって、怖かった」

 なんて悲痛さにまみれた声で呟く蓮のその声に、裕もずびっと鼻を啜りながら蓮の服の裾をキュッと握り、

「……だから、俺だって同じなんだって……俺も、蓮がそうなったらどうしようって、そう思ったらなんか居ても経ってもいられなくて、そんで来てくれた時も、嬉しかったけど、逆に蓮が、あいつら、ころ、殺しちゃうんじゃないかって、……それもめちゃくちゃ、怖かった」

 とぼろぼろ泣いては本音を溢していた。


 無表情で淡々と殴る蓮を見て身がすくんでしまったあの時、もし有人が駆け付けてくれずそのまま裕も声を掛けることが出来ないまま見ているだけだったら。

 そう考えれば怖くて怖くて、裕が蓮の肩に頭を乗せながらうぅと呻けば、その裕の背を抱き締めあやした蓮が、

「うん。ごめん、……ごめんね。怖かったよね、ごめん」

 なんて謝るので、裕はふざけんなよほんと。と胸元を小さくドンッと叩き、でも、そうならなくてほんと良かった。とぼろぼろ涙を流しながらその首に腕を回した。


 それから蓮は裕の少しだけ癖のある髪の毛をくしゃりと撫ぜては何度も謝り、裕もまた、俺も心配かけてごめん。と謝りながら顔をあげて蓮を見た。

 裕の涙で濡れた瞳が、至近距離できらりきらりと光っている。

 その暗がりに灯る光に蓮が見惚れていれば、そっと腕を離した裕が蓮の腕を取って掌を握り、

「……怪我、してるじゃん」

 と殴ったせいで拳が赤く腫れているのを見ては眉を潜めさせ、

「もうこんな事しないって、誓え」

 なんて言う。
 その言葉に蓮も掴まれていない方の手で裕の赤黒く血が滲む唇の端をなぞっては、

「分かった。……でも裕も、もう無茶しないって誓って」

 と辛そうな顔をして見つめてくるので、裕は蓮の顔をむにっと挟み、

「俺も分かったから、笑え。……お前笑ってないと怖いんだよばか」

 なんて軽口を言いながら破顔する。
 その泣きながらも笑う裕の顔に蓮が眉を下げ笑えば、なんだよその顔。と吹き出した裕。
 それでも満足げな表情を浮かべたあと、

「それから、ちゃんと言えてなかったけど、二位、おめでとう。ほんとすげーよお前」

 と柔く笑った裕に、そういえば。と蓮も笑い、

「……うん。一位にはなれなかったけど、ありがとう」

 と呟いては、頑張ったからご褒美ちょうだい。と言いたげにこてんと裕の肩に頭を置いた。


 その短い黒髪や肩に触れる温度に睫毛の先を震わせつつそっと撫でたあと、滅多に見れない蓮の旋毛にちゅっと唇を押し当てては、

「……好きだよ、蓮」

 と囁いた、裕。


 その突然の台詞と触れた唇の感触に鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした蓮が顔をあげ、え、いま……、と呟けば、ケタケタと笑い声をあげた裕が、

「お前のペースに振り回されてるだけの俺じゃないんだよ」

 なんてにししっと歯を見せていて、その顔に、え、まって、とテンパったあと顔を覆っては、

「なんで先に言っちゃうの……!? 俺から言うつもりだったのに……!」

 と蓮が叫び、

「ていうかしかもなんでこんなペンギンの腹の中なわけ!? もっとちゃんと、夜景の見える場所とかちょっといいバーとかで言うつもりだったのに! あーもう! なんでペンギンなんだよ!」

 なんて言いながら膝を抱えてしまったので、お前そんな事考えてたん!? 逆に引くわ! と裕が笑いながらも、返事は? なんて可愛らしい笑顔で見つめる。
 その表情にはありありと、もう知ってるけど、ちゃんと言葉で言ってくんねぇとやだ。と書いてあって、蓮は、ほんとになんでこんな所で、と深い溜め息を吐きながらも、

「……始めは可愛いなぁって、タイプだなぁくらいのノリだったんだ。でも、裕の事知れば知るほどどんどん好きになって、大事になって、大切にしたいって思うようになった」

 と呟いたあと、

「俺、こんな風に誰かを想ったの初めてで、自分でもびっくりするほど、裕の事が大好きなんだよ。……だから、もうこんな風に怪我させたりしないように俺が守るから、絶対幸せにするから、俺と付き合ってください」

 と言っては抱き締めてくる蓮に、……やっとちゃんと好きって言った。と笑ったあと小さく鼻を啜っては、

「……自分の身は自分で守るっての」

 なんて溢しつつも、ぬくぬくと広がる蓮の温かさと良い匂いに目を閉じながら背中に腕を回した裕は、うん。と力強く頷いたのだった。



 それから二人はなんとも格好が付かないペンギンの腹のなかで手を繋ぎながら、さきほどあったカイ達の事やまだ知らないお互いの事を、夜が更けるまでずっと話をした。

 空には、とても美しい星が瞬いていた。



 to be continued……






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