髪を切った。
特に理由など無かったがバッサリ切った。
腰を覆う程あった髪は、今やうなじを隠すだけとなった。美容師にも、本当に切って良いのか、と何度も訊かれたが、私はその度に頷いた。
肩で揺れていたお下げ髪の感覚が無くなってしまったのは少し寂しいが、首を撫でる短い髪も悪くない。
心機一転。今日から新しい私だ、なんて言ってみる。

短い髪で学校に行く。

「仁王、先輩……!?」

後ろからの声に振り向く。可愛い後輩がいた。

「おはようさん、赤也」
「先輩、その髪……」
「おん。切ったんよ……似合う?」

掌で毛先を持ち上げる。すると、赤也にその腕を掴まれてしまった。キョトンとして彼を見下ろす。

「赤也?」
「……っ、何があったんスか……!!」
「何って……何も無いがよ?」

笑ってみせるが、赤也は私の腕を掴んだままだ。こちらを見た。眉間にシワを寄せ、目に涙を溜めていた。微かに身体が震えている。

「先輩……」

悲愴な、消え入りそうな声。

「何が、あったんスか……?」

…………………………………………。

「何って……」

































「柳生と別れただけぜよ」

 
 
 
 
 
  

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
柳生と別れた。だから髪を切った。
柳生を忘れたくて、バッサリ切った。
柳生が好きだと言った長い髪は、今やうなじを隠すだけのものとなった。美容師にも、本当に切って良いのか、と何度も訊かれたが、私はその度に頷いた。もう柳生の好きな私でいる必要はない。
お下げ髪は、柳生が似合うと言ってくれたから。一日も変えることなく二つに結び続けていた私は本当に恋する乙女だったと思う。健気にも程がある。肩で揺れていたあの感覚が無くなってしまったのは少し寂しい。もうあの尻尾を引っ張る手は無いのだから。
心機一転。今日から新しい私だ、なんて言ってみる。恋を亡くした私の出来上がり。

短い髪で学校に行く。


「失恋したら髪切るなんて、よくあることじゃろ?」


「単なる気分転換じゃ。髪はまた生えてくるき」


「じゃけぇ……もう、泣かんで。赤也」


「こっちまで、泣けてくるけぇ……」



不完全な私。






カミキリムシ




2013.5.2
.