この日が来る度、女であることを放棄したくなる。




「死ねばええんに……」

怠い身体、下腹部の鈍痛。
舌打ちすれば、目の前の丸井がケラケラ笑う。

「女って大変だなー」
「うるさい」

ギロリ、睨みつけると、「おぉ、怖っ」と肩を竦めた。それでもヘラヘラ笑うこいつにイライラする。
保健室で貰った薬を飲み下すと、おもむろに立ち上がる。

「おーい、授業どうすんだよ?」
「サボる。適当にごまかしとけ」
「へーへー」

教室を出る際に丸井がガムを投げて寄越した。青リンゴ味のそれをポケットに突っ込み、屋上へ足を向かわせる。

屋上の扉を開けると同時に、授業開始のチャイムが鳴る。
うららかな陽射しが気持ちいい。薬が効いてきたのか、大分痛みが和らいできた。軽く伸びをすると、錆びた梯子に足を掛けた。
 
「……っ、」

先客がいた。上った先にいた人物を見て驚く。

「どうも」
「やぎゅ……」

寝転んだ状態で分厚いハードカバーをめくる柳生。大して興味なさそうな視線を私に向ける。

「……おまんがサボりとか珍しいの」
「自習でしてね。適当に理由付けて出て来ました」
「真田が後でうるさいぜよ」
「何だかんだ言って彼が一番うるさいんですよ……他の人が喋ると、すぐがなりますから」
「後で言っちゃる」
「返り討ちにしてやります」

フフンと鼻で笑う。
後で本当に言ってやろうと思いつつ、柳生から少し離れた所に寝転ぶ。横になると、うつらうつらしてくる。自然と瞼が閉じる。
 
「何寝ようとしてるんですか」

いよいよ眠りにつこうとしていた所で、頬を抓られた。薄目を開けて見ると、柳生が不満げな表情で私を見下ろしていた。
頬を摘む手を振り払い、柳生に背を向ける。が、奴が私の身体を揺さ振る。

「寝ないで下さい。退屈です」
「さっきの本でも読んどったらええじゃろ……」
「あれ読むの五周目なんですよ」
「あーもう、うるさい」

あっちに行け、と手をひらひら振る。
するとその手を取られ、指先に温かい感触が落ちる。
ギョッとして振り向く。

「ちょっ……」

困惑する私を余所に、柳生は指先から手の甲へと順にキスを落としていく。
手首に口づけた所で目が合う。ニヤリと口許に笑みを湛える。掌を甘噛みされた。
 
 
「雅」


甘いテノールで、ここぞとばかりに名前を呼びやがる。愛おしそうに私の手を頬にくっつけて。

……溜息を一つ。身体を起こした。

「…………好きにしんしゃい」
「ありがとうございます」

嬉しそうに笑った柳生が私を腕の中にすっぽり収めた。背中越しに柳生の鼓動が伝わる。
猫みたくゴロゴロ喉を鳴らしそうな勢いで、柳生が私の頬に自分のそれを擦り寄せる。舌打ちすれば、耳にキスが落ちた。

「……鬱陶しい」

何ですかそれ、と言う柳生に気付かれないよう、こっそり微笑んだ。







憂鬱GirlsDay




2013.4.1
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