友人と別れを惜しんでいるクラスメイトをよそ目に、教室を出る。 卒業式の直後の廊下をふらつく酔狂な輩は見当たらない。一人、階段を上った。 掃除されていない床は相変わらず埃っぽい。何度も行き来した私の足跡が目立つ。今日も“立入禁止”の古ぼけたプレートを跨ぎ、錆び付いたドアノブを握る。ギィ、と掠れた音を立てて開いた。 「さむ……」 風が私の髪を掬う。冷たい風。三月だというのに……カーディガンの袖を精一杯伸ばしても指先が冷たい。 手摺りに腕を乗せ、下を見た。丸井と赤也が騒いでいた。元気な奴らだ。 その向こうには、体育館。 「……………………」 数時間前の風景が蘇る。 『卒業生代表、柳生比呂士』 名前を呼ばれ、壇上に上がる紅茶色をずっと見つめていた。 きっと、これが最後に見る奴の姿……の筈だった。 ポケットから一枚の一筆戔を取り出す。式が終わった直後、奴に渡されたものだ。 「寂しかったら、いつでも連絡して下さいね」 悪戯っぽく笑った奴を、まともに見れなかった。いつもみたいに憎まれ口を叩いて終わった。 「…………っ、」 ぽたり、涙が落ちた。 慌てて拭うが、それは次々と溢れ出て来る。 「…………さいあく」 奴が外部進学することが決まって、寂しい自分と安心した自分がいた。奴に友達以上の感情を抱き始めた自分が嫌だった。腐れ縁とは言え、友人として接してくれていた奴を穢しているようで。 一筆戔が風に揺れる。綺麗な奴の字。半角英数字が紙面で踊っていた。 まるでラブレターだ。 ……なんて思ってしまう私は、奴に恋をしている。 「期待なんかさせんで…………」 君のことなんて、忘れたかったのに。 半角英数字のラブレター 2013.3.1 . |