四時間目の授業は音楽だった。迷わずサボる。
ノロノロと屋上へ向かうと、給水塔の裏に寝転んだ。空は抜けるように青い。

「気持ちええのぅ……」

春は好きだ。寒くもないし暑くもない。暖かい陽射しが俺に降り注ぐ。ぽかぽかと気持ちが良い。自然と瞼が閉じる。
ちょっとだけ……と、そのまま眠りに落ちた。


────遠くで、チャイムの音がした。


その音で目が醒めた。
しまった……つい眠ってしまった。

「ん…………」

目の前に広がる深緑色のスカート、黒いタイツ。動いた時、後頭部に伝わる熱に気付く。
顔を空の方へ向ければ、『アクロイド殺し』のタイトルが目に飛び込んで来る。

「あら、目が覚めました?」
「やぎゅ……」

本の陰から微笑みが覗く。

「おはようございます、仁王くん」

風がふわり、柳生の髪を掬った。紅茶色が陽射しに煌めく。 
 
パタンと柳生が本を閉じる。そして「授業、サボったんですね」と軽く俺を睨んだ。

「いま、なんじ……?」

未だ覚醒しない頭で柳生に訊いた。

「お昼休みに入って5分程経った所です」
「あ……………………すまん、教室迎えに行こう思うたんに……」

今日は柳生と一緒にお昼を食べる約束をしていたのだ。授業をサボる前は行く気満々だったのに……俺の阿呆。

「授業が終わっても貴方が来ないので、屋上に来たんです。仁王くんのことでしょうから、ここだろうと。そしたらぐっすり寝てらして……ふふ、」
「起こせば良かったんに……」
「あまりに気持ち良さそうに眠ってらしたので、起こさなかっただけですよ」

お気になさらず、と笑う柳生が、俺の前髪を梳く。その指の感覚がやけに心地好くて目を細めると、「猫みたいですね」と頬を撫でられた。

ちょっと悪戯心が湧いた俺は、その指を甘噛みしてやる。唇で挟んで、やわやわと。
流石にびっくりしたのか、目を見開いて俺を見る柳生。それを見てニヤリと口許で笑う。かぷり、口に含めば、くすぐったそうに身をよじらせる。お構いなしに舌で爪をなぞった。

「こーら」 
 
音を立ててしゃぶったら、指を引っこ抜かれた。急に口の中が物寂しくなる。

「やぁぎゅ」

前歯をカチカチ鳴らし、不満を表現する。プクリと頬を膨らませるのはご愛敬。
すると、柳生がベロリと指を舐めた。赤い舌が俺の唾液を舐め取る様子に、喉が鳴る。

「……悪い子」

フッと笑った柳生の顔が近付いた。それと同時にに柳生の手が俺の目を隠す。

「ん……」

唇に伝わる熱。押し返すように力を入れれば、同じ位の力が返って来た。
しばらくして、柳生が離れる。視界が開ける。

「……淑女ち言うんはもっと大人しいもんじゃないんがか?」
「貴方の前じゃ、私も一人の女ですよ」

クスリ、柳生が笑う。のそりと起き上がる。欠伸を一つ。その間に柳生は弁当を用意してくれる。

「やーぎゅ」
「はい?」

柳生が振り返ったその瞬間、目の前のそれをペロッと舐めてやった。
きょとんとして固まる柳生。

「いつもやられっぱなしじゃけぇ、仕返し」
「全く……貴方って人は…………」

ニイッと笑ってみせれば、柳生の顔が赤くなった。 
 
 
「さあ、お昼にしましょう」


お互い、デザートは先に頂いてしまったけど。






Sweet Beast







2013.2.20
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