シャワーを浴び終え、シャツを羽織って浴室を出る。
髪を拭きながら戻ると、柳生がベッドの上で本をめくっていた。私を一瞥すると、不機嫌そうに息を吐く。

「遅かったですね」

分厚いハードカバーを閉じると、柳生がテーブルの上のリモコンに手を伸ばす。テレビの液晶画面はDVDのメニュー画面を映していた。

「貴女が戻らないと、続きが観れないでしょう」
「一人で見とったらええじゃろ……」
「それが出来ないから貴女を呼んだんじゃないですか」

恋人だから、というのは理由じゃないのか……という言葉を飲み込む。
私もベッドに上がり、柳生の隣に座る。

「どこからやったかの……?」
「ゾンビがストリートミュージシャンに襲い掛かる所からですよ。覚えてないんですか?」
「……どこぞの似非紳士に襲われたけぇ、記憶ぶっ飛んだんじゃ」

私が皮肉めいて言ってやると、柳生は心外だと言うような顔をする。 
 
「抱き着いただけでしょう。それを貴女が私の加虐心を煽るような態度を取るから……」
「無言で胸鷲掴みされたら誰だって叫ぶわ。暴れるわ。こん変態」
「変態とは何です。失礼な。どうせ抱き着くなら、触り心地が良い所の方が良いじゃないですか」
「それはおまんの都合じゃろ。抱き着くだけならウチも何も言わんわ。触り方がやらしいんじゃ。ドアホ」
「ただ触られるのも嫌かと思っただけです。ちょっとした気遣いですよ」
「いらんわそげな気遣い。結局本番までいったし……腰痛い」
「それは……失礼しました」
「ゾンビのうめき声BGMのセックスとかシュール過ぎるぜよ」
「その割にはよがってましたね。ノリノリで」
「……やかまし」

愉快そうに笑う柳生。そっぽを向くと、肩を抱かれる。

「……貴女ぐらいにしか頼めないんです。最後まで付き合ってもらいますからね」
「……しゃーないの」

小さく微笑むと、柳生の肩に頭を乗せた。 
 
 
 
『Hooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!!』


ストリートミュージシャンがギターを振りかざし、次々とゾンビを薙ぎ倒していく。


…………シュールだ。







そんなのはなし






2013.1.26
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