中庭のベンチにて。 柳生は一人座って読書にいそしんでいた。 ページをめくると、指に微かな違和感。 「あら」 人差し指にうっすら白い線が入っている。血は出ていない。どうやらページをめくった時に、軽く切ってしまったらしい。 手にしている本に目をやると、読み始めた時より大分ページが進んでいる。自分が思っていたより時間は進んでいたようだった。 「クリームをしっかり塗ったはずなんですけどねぇ……」 鞄からポーチを取り出す。その中からレモン色のチューブを引き抜いて、キャップを外した。 ──うにゅり。 「やーぎゅっ」 「わっ!?」 いきなり後ろから抱き着かれ、前につんのめった。 「やぎゅー」 「あら、仁王くん」 「ピヨ」 首に回る細い腕。仁王の髪が、柳生の頬に触れる。ふわふわの銀髪が猫みたいだ。 「柳生さん、何しゆうがか?」 「見ての通りですよ」 「……はんどくりーむ?」 「ええ、今から塗る所です」 「えらいたくさん塗るんじゃの」 「え?あ……」 手の甲には、いつもより多いクリームの塊。抱き着かれた時、勢い余って手に力が入ってしまったようだ。 戻す訳にもいかず、取り合えず手に塗り込む。 「……ベタベタしますね」 いくら塗り込んでも、手にいくらかクリームが余ってしまう。 「なあ柳生さん。手、貸しんしゃい」 「は、はい……」 すると柳生に抱き着いたまま、仁王がその手を握る。 にぎにぎにぎ。 余分なクリームが、仁王の手に移る。先程までのベタベタが嘘のように消えた。 「これで丁度良うなったじゃろ」 「まあ……ありがとうございます」 「ピヨ」 振り返って微笑むと、仁王は頬を擦り寄せる。嬉しそうに自分の手の匂いを嗅ぐ。 「このクリームええ匂いするぜよ」 「プルメリアの香りです」 「ぷるめりあ……俺、こん匂い好きじゃ」 「仁王くんが欲しいのなら差し上げますよ」 「ううん。また柳生にもらうけぇ、いらん。おまんが持っとりんしゃい」 「では、そうしましょうか」 「やぎゅー好きー」 「ふふ……私も愛していますよ」 「…………あいつら、ここが中庭だということを忘れているな」 「うわっ!ちゅーしたっス!」 「流石バカップルと言った所だな……どうだ赤菜。俺達も、「却下っス」」 「(´;ω;`)」 はんぶんこ 2013.1.17 . |