放課後の図書室。
柳生と二人で本を探す。

「まったく……幸村も人使いが荒いぜよ」

文化祭でテニス部の有志単位を演劇にするらしい。それも中等部の時のような童話ではなく、本格的なものにしたいとのこと。
こういうのは柳が得意そうなのだが、柳生が買って出た。しかも私を巻き込む形で。

「良いじゃないですか。脚本を書くわけではないのですから」

悪びれることもなくサラリと言う柳生に何も言えず、半ば引きずられるように連れて来られた。

図書室の一番奥まで足を進め、一通り背表紙に目を通す。

「シェイクスピアで良いじゃろ、無難じゃし」
「……仁王さん、貴女シェイクスピア読んだことあるんです?」
「いや、まったく」

雑談をしつつ、手に持つ本を増やしていく。

「日本文学も借りてくかの」
「源氏物語は長いから向いてませんよ」
「それもあるが内容がアレじゃろ」
「それは知ってるんですね」
「……やかまし」

クスクス笑う柳生にムッとしつつ、背伸びして文庫本を取ろうとした時だった。 
 
 
────ぎゅっ。


「……柳生?」

後ろから巻き付く両の腕。
唯一自由な左手で、腰に回る腕を軽く叩くと、左肩に彼の頭が乗った。腕の力も強くなる。

「……何かあったがか?」

優しく言うと、何も言わず額を擦り寄せた。

柳生にはたまにこんな時がある。
手を繋ぐのも恥ずかしがる彼が、ある時ふと、人目も憚らず甘えてくるのだ。私の悪目立ちを嫌う性格を考えてか、おおっぴらには甘えてこない。が、今のように人気の無い図書室の奥とかだと遠慮なくそのスイッチが入る。

何かと抱えるものが大きくて多い彼だ。弱い自分は決して見せないし、弱音も吐かない。
だが、柳生だって人間なのだ。いつも完璧ではいられない。


『……貴女が恋人で良かった』


以前言われた言葉が耳に蘇った。 
 
その時は何だか気恥ずかしくて、つい悪態をついてしまったが、実は相当嬉しかったりする。
いつも完璧で紳士な彼が、その仮面を外してくれたように感じたから。

「甘えたさんじゃのぅ……」

もう少しこの状態を堪能したくて、彼の髪を撫でた。ふわりと香るシャンプーの匂いに、胸がキュンとした。

弱さを見せれる人間が、私だけだったら良いな。


勿論、柳生には内緒の話。




あなたが仮面を外すとき





2012.12.5
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