彼の手が私に朝を告げる。

「雅さん、雅さん」

ゆらゆら。
身体を揺さ振られ、私は目を覚ます。カーテンが開け放たれた窓から差す光が眩しい。

「おはようございます」
「ん……おはよ」

寝惚け眼を擦る。
彼に起こされる、いつも通りの日曜日。

「いま、なんじ……?」
「9時過ぎです」
「……もうちょっと寝る」

紅茶色の頭を撫でて、私は布団に潜り込む。

ゆらゆらゆら。
再び身体が揺れる。

「雅さん、起きて。雅さん」
「眠い……」
「雅さん、お腹空きました。ねぇ、雅さん」
「自分で出来るじゃろ、そんぐらい……」
「台所が地獄絵図化しますよ?」
「……5分待って」
「待ちません」

そう言って彼は私の布団を剥ぎ取る。寒さに身が震えた。カーディガンを羽織る。3月とは言えまだ寒いのだ。
「お腹空いた」と連呼し続ける彼にデコピンして、ベッドから降りた。 
 
 
軽く身嗜みを整え、台所に立つ。バゲットを切りながら欠伸を一つ。冷蔵庫から卵を取り出し、溶き卵を作る。牛乳も入れれば、綺麗なマーブル模様が浮かんだ。溶き卵に浸したバゲットを熱したフライパンへ。焦げたバターの香りが鼻をくすぐった。

「まだですか?」

匂いがリビングまで漂って行ったらしい。彼が台所までやって来た。私の腰に腕を回し、フライパンを覗き込む。「もうちょっと待っとって」と頬を撫でれば、指先にキスが落とされた。

「いただきます」

メープルシロップの掛かったフレンチトースト。彼が一口食べるのをジッと見る。その頬がちょっと緩んだ。

この時の彼を見るのが好き。
自然と笑顔になる。

「雅さん?」

彼の食べる手が止まる。トーストに手を付けず、ニコニコしていた私を不思議に思ったようだ。 
 
「具合でも悪いんですか?」
「んーん……」
「何です?」
「……比呂士と結婚して良かったなち思うただけ」
「…………っ、」

彼が目を見開いた。徐々に顔が赤くなっていく。

「どしたん?」
「いえ、その……」

ごまかすように紅茶を口に含む。チラリと私を見て目を逸らしたが、そっと口を開く。

「……貴女からそういうこと聞くの、初めてな気がして……」

貴女はあまり言葉にしないから。

俯いて言った小さな声だった。

「だから、その……嬉しいです。そう言ってもらえて」
「……ふふ、」

あまりに初な反応をする彼が可愛くて、思わず笑ってしまう。彼が拗ねたようにこちらを睨む。
それでもニコニコする私を見て、またちょっと、彼の頬が緩んだ。

「比呂士」
「何です」
「好いとうよ」
「……知ってます」


彼に起こされる、いつも通りの日曜日。 
 
 
 
 
 












2013.3.2
.