休日、仁王くんを自宅に招く。

現在、私の部屋で二人きり。特別甘い空間という訳ではない。二人共同じベッドの上に位置しているが、私は読書をしているし、仁王くんは雑誌をめくっている。
お互い黙ったままでも気にならない。まるで熟年夫婦のようなこの時間を、私は密かに好きだったりする。

時計の針がチクタク時を刻む音だけが部屋に響く。

すぅ、と寝息が聞こえた。
いつの間にか仁王くんは眠ってしまっていて。カーテン越しの光に柔らかく輝く銀髪が綺麗だ。額に掛かったそれをそっと指で払うと、「ん……」と声を漏らした。“詐欺師”なんて異名からは掛け離れたあどけない寝顔が可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまう。

彼を起こさないように、そっとベッドから降りる。
紅茶でも淹れてこようと思った。仁王くんはアールグレイとオレンジペコ、どちらが好みだろうか。
そんなことを考えていた矢先、


────ぎゅっ。


背中越しに伝わる熱。首に回された両腕。肩に乗る頭からは、銀色が零れていた。 
 

「……やぎゅう」
「おや、起こしてしまいましたか」

申し訳ありません、と言うと、かぶりを振った。

「…………柳生」
「はい、何でしょう」
「……………………何でもなかよ」

そういう彼の声は、いつもよりトーンが低かった。

「……仁王くん?」

手を伸ばすと、彼は私のそれに頬を擦り寄せる。目が合うと、サッと逸らしてしまう。その姿はさながら猫のようだ。私の肩に顔を埋め、仁王くんが口を開く。

「……夢、見とった」
「へぇ、どんな夢です?」
「んー……」

彼の言葉が途切れた。私はただ黙って、彼の言葉を待つ。


「……………………柳生が俺と別れて、知らん女と結婚する、夢」


……怒ってええよ、と仁王くんが自嘲気味に笑った。彼は私から腕を離すと、ベッドに倒れ込んだ。俯せのまま動かない。 
私は再びベッドに座ると、彼の銀色の頭を撫でる。仁王くんがくすぐったそうに身をよじった。顔を半分だけ上げて、こちらを見る。

「……怒らんの?」
「おや、怒ってほしいんですか?」
「あほ」

仁王くんはムッとしたように私を睨みつける。微笑みを返すと、頬を赤く染め、目を逸らす。そっと目尻を撫でると、キュッと目を細めた。

「……仁王くん」
「んー?」

こちらを向いた彼に覆いかぶさり、その唇に口づける。
触れるだけの、キス。

「やぎゅ……」

仁王くんが私に抱き着く。私も彼の銀色に顔を埋める。彼が使っている独特のコロンが香った。

「俺な、目が覚めて、夢で良かったち思うた……怖かった」
「……はい」
「けど、お前さんが立ち上がってどっか行こうとしたき……」
「私に抱き着いて下さったんですね、可愛らしい」

私が笑うと、仁王くんが拗ねたように私の首筋に噛み付いた。

「おやおや……悪い子だ」
「んっ…………」 

彼のうなじからつむじにかけて指を這わせ、貪るようなキスをする。次第に深くなるそれに、仁王くんが甘い声を漏らした。唇を離すと、潤んだ瞳で彼が私を見上げていた。
泣きそうな笑顔の彼に、また一つキスを落とす。


「やぎゅ……好いとうよ…………」

彼の髪が夕日色に染まっていく。

「ずっと、一緒におって……」

「ええ……」


甘い時間が、始まる。





Si prega di non lasciare






2013.1.25
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