12月24日。
駅前の噴水広場で彼女を待つ。
空は完全に夜だ。まだ6時だというのに、もう星が出ている。吐いた息が白く染まるのを見て、冬を実感した。

「……………………」

ふと、昨日の彼女との会話を思い出した。












RRRRRRRR…………


「はい」
『もしもし……』
「おや、どうされました仁王さん」

珍しいことに、彼女から電話がかかってきた(「電話怖い!繋がるまでの間に耐えれん!」と言っていた彼女にしてはすごい進歩である)。

『あんな、柳生』
「はい」
『その……明日の……ことなんじゃがの……』
「明日の“デート”が、どうかしました?」
『…………っ、ばか……!!』

姿が見えない分の彼女を想像で補う。きっと、いつものように前髪をいじっているのだろう。恥ずかしがってる時はいつもそうだ。

『その……お前さん、明日どんな服着る予定なんかの?』
「服、ですか」 
 
これはまた意外な質問だ。

「申し訳ありません、これから決める所でして……」
『なら良い!』

急な大声に驚いて、受話器から耳を離す。

『すまん……』
「いえ、大丈夫ですよ」

申し訳なさそうに俯いているであろう彼女の姿を想像して、思わず笑みが零れた。

『決まってないんなら、いっこ我が儘言うて良い?』
「ええ、構いませんよ」
『……あんな、いつもウチが着とるような服じゃのうて、おまんが普段着とるようなので着て来てくれん?』

またしても意外な提案だ。

「シャツにネクタイ、みたいな感じのですか?」
『おん。そういうちょっとフォーマルっぽい服』
「別に構いませんけど……どうして急に?」
『内緒。もしお前さんがウチの普段着に合わせたりしたら、帰る』
「さて、ネクタイはどれにしましょうか」
『……ありがと』

フフ、と受話器越しに、彼女の笑い声が聞こえた。

「では、明日」
『おん。おやすみ』 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
広場を装飾するイルミネーションが、夜空の星に負けじと輝く。

改めて自分の服装を見る。
彼女直々のお願いとあって、ワイシャツにネクタイ、ジャケットといった格好の私。一応いつもより少し上等なものである。

「…………」

何故彼女は苦手な電話をかけてまで、私の服装を指定したのだろうか……。

思考を巡らせていると、後ろから声を掛けられた。

「やーぎゅ」

振り向いた先にいた彼女。

……成る程、そういうことか。
謎はあっさりと解決した。

ドット柄のブラウス、黒いスカート。タイツに包まれた足には、ピンクのハイヒール。
少し恥ずかしそうに微笑む彼女の銀髪は綺麗に巻かれていて、ちょっとしたパーティーに出席出来そうだった。 
 
「夜に二人で出掛けるん初めてやき、ちょっとお洒落してみたんよ……どう?似合わん?」

心配そうに上目遣いでこちらを見る。

「……いえ、よくお似合いですよ」
「……ありがと」

私が差し出す手を遠慮がちに握る彼女が可愛くて、そっとその手にキスをした。

「さて、行きましょうか。エスコートしますよ」
「ん」


今宵はクリスマスイブ。
天使が歌う夜に、愛しき君と二人。





デートをしよう








2012.12.24
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