炎は、全てを燃やし尽くす。誰かがそう言った。その言葉を聞いた時、俺はある男を思い出した。
背中に六文銭を背負った、男。
「元気にしてるのかなあ」
夢吉の頬を突きながら思い浮かべる細い身体。戦う事しか知らないあの男は、今も主の為に槍を奮っているのだろうか。
勿体無いな、と思う。見た目だって悪くはないし、何より地位もある。第一印象から受けた雰囲気も悪くはなかったし、寧ろいい人だと思った。嫁なんて求めなくてもやってくるだろうに、あの男は恋を知らないのだ。勿体無い。
ひゅるる、どおん。本日一発目の花火が打ち上がった。ぱっと色づく京の都。あちこちであがる歓声。
こんなにも美しいのに、一つ違えば全てを燃やし尽くしてしまう炎。その恩恵を受けし人は、俺の知り合いにも沢山いる。沢山いるが、一番に受けているのはあの男、真田幸村だと思うのだ。
「本当、炎みたいな人だよ」
誰からも好かれる要素を持っているにも関わらず、全てを燃やし尽くす力を持っている。強そうに見えて実は脆い。
そんな炎みたいな男は、きっと俺の事が嫌いだろう。何せ出会っていきなり迷惑をかけるわからかうわ。今思えば酷い話だ。
でも、本気で相手をしたら、のまれてしまうと思ったのだ。あの、誰よりも危うい炎に。
ききい。夢吉が俺を呼んだ。
「どうした夢、吉…」
「お久しゅうございまする。前田殿」
たなびく赤い鉢巻き。揺れる六文銭。先程思い浮かべたばかりの男が、今俺の目の前に立っている。驚きのあまり目を見開いていると、どおおん。空に黄色と赤の花が咲いた。
(ああ、やっぱり)
(綺麗なものだ)
炎に魅せられた行く末は、生か死か。
朱華が咲く