「今日ってさ、一番死が近い日らしいよ」
口の中に含んでいた甘じょっぱいかぼちゃが、ほろりと崩れた。この前食べた物はもう少し粘度があった。今日の物も美味しいが、前の物のほうが個人的には美味しかったように感じる。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「…どういう意味で?」
「今日は夜が長いからね」
慶次殿の長い髪からは、ほんのり柚子の香りがした。それはきっと自分も同じであろう。何せ同じ風呂に先程まで入っていたのだから。
風呂からあがって蜜柑を食べようとした瞬間、慶次殿があっと小さな声をあげた。そういえばかぼちゃ食べてないね、と。そして二人で急遽かぼちゃを煮た。圧力鍋とは便利である。そして現在に至るのだ。
「昔は太陽を命の象徴としていたみたいだよ」
「ふむ」
「太陽が出ているうちは、作物も元気に育つし何より世界が明るいからね」
あっという間になくなるかぼちゃ。最後の一つは慶次殿の箸に掴まれる。その一連を見ていたら、口元にかぼちゃがやって来た。
「はい、あーん」
親鳥に餌を与えられる雛鳥のように、某の口は小さく開く。ほろほろ。塩味と甘味。二つの味が広がった。
「だから、太陽の出ている時間が短い日は、死が一番近いって言われていたんだってよ」
「…慶次殿は物知りでござるな」
「まあ、元親から聞いたんだけどね」
「…元親殿は物知りでござるな」
「その元親は毛利さんに聞いたって言ってたけどね」
ははは、と笑ってから慶次殿は某の頭をくしゃくしゃと撫でた。慶次殿は何か楽しい話をする度に某の頭を撫でる。それは話が変わる合図でもある。
「歯磨いたら寝よっか」
「洗い物…」
「明日でいいよ」
死が一番近い夜ならば、少しでも二人で一緒にいたいじゃん。
そう呟いた慶次殿の表情は、今まで見てきた中で一番穏やかだった。
「…うむ」
「更に言うと今日で世界滅亡するらしいし?」
「それは誰から聞いた話で?」
「政宗」
「…そうでござるか…」
長い夜を、君と