冬の夜は寒い。
「なあ、三成もそう思うだろう?」
「別に思わん」
「…」
「何だ。同意を求めても無駄だぞ」
灯篭の中の炎が揺れる。あと少しで燃え尽きるだろうそれは、早く眠りにつけと言っているようだ。家康は既に布団の中に入り、その身を縮こませているのに対し、三成は未だ書を読んでいた。
「知ってるか、三成。暗い所で書を読むと目を悪くするんだぞ」
「構わん」
「もう蝋燭の炎が消える。なあ、三成…」
「眠たいのなら早々に寝ろ。私はまだ眠らない」
語尾が静かな家康に対し、三成の口調は未だ鋭い。もう間もなく丑三つ時だろう。それでも三成の意識ははっきりとしていた。眠る時間すら惜しいのだ。一つでも多く兵法を学び、刀の手入れをし、出来れば己を鍛える。全ては主の為。三成にとって睡眠は、無駄でしかない。
「…ふっ」
「! 家康、貴様!」
蝋燭の炎はいとも簡単に消された。急に暗闇に包まれる部屋に、家康の小さな笑い声が響いた。
「何処だ家康!」
「ワシはここだぞ。布団の中だ」
「邪魔をするなら自室に戻れ!」
「三成、秀吉殿が言っていた。睡眠は無駄なものではなく大切なものだと」
「! 何…!」
秀吉殿が言っていたなんて、嘘だが。家康は心の中で呟いた。しかしそれは言わねばわからぬこと。現に三成はその言葉を信じたようで、急ぎ布団の中に入り込んできた。
「何故一つしか用意していない」
「冬の夜は寒いからな。こうすれば温かいだろう?」
「…くだらん。だが…」
三成の細指が家康の頬をなぞった。その指はひどく冷たい。だが、じわりじわりと温かくなっていった。
「確かに、貴様は温かい」
「…おやすみ、三成」
「…ああ」
家康はわかっていた。ここ最近三成が寝る間も惜しんでいたことを。このままでは疲れがたまりいつか倒れてしまうか病んでしまう。そう思った家康は、どうにかして三成に眠ってほしかった。そして辿り着いた手段は、共に眠るという方法だった。
(良い夢を見てくれ、三成)
(ワシはもう少し、お前に笑ってほしいんだ)
寄り添いあう体温は、何よりも心地良い。深い眠りに落ちたのか、二人が目覚めたのは、珍しく太陽が登りきった時間だった。
共に眠ろう