「どうやら私は病にかかっているようだ」
突然の告白に、元親は読んでいた文をばさりと落としてしまった。見開かれた海色の隻眼に映るのは、ばつが悪そうに眉間に皺を寄せる凶王と呼ばれていた男、石田三成。
あの大戦以来、行き場を無くした三成を受け入れたのは元親だった。最初は全く心を開いてくれなかった三成も、元親や四国の民に触れ続けることにより少しずつ、確実に変わっていった。最近では共に酒の場に行ったり、漁を手伝いにも行く。
元親は三成が変わっていく様を見るのが嬉しかった。こいつに笑ってほしい。いつの間にか元親にとって三成は、家族のような、大切な存在になっていたのだ。
「や、病? それは、医者に聞いたのか?」
「いや、まずは貴様に言わねばならんと思った」
「どんな感じなんだ? 腹が痛えのか? それとも頭か?」
見た感じ熱は無さそうだが。元親は手を伸ばし、三成の長い前髪をどかして額に触れる。その瞬間爆発したかのように三成の白い頬は赤くなり、それに比例して額は熱くなった。
「すげえ熱あるじゃねえか! こりゃまずい、早く医者を」
「ま、待て長曾我部!」
医者を呼ぼうと立ち上がった元親を、三成はすぐさま引き止めた。元親を見つめる三成は、頬は赤く、切れ長の目は揺れている。口元だって歪みまくりだ。こんな姿今まで見たことがない。元親は更に不安になった。
「何だ、何か言いてえことがあるなら早く言え」
「これは、貴様が…いや、貴様のことを考える時にしかならない」
「…は?」
三成の言い分はこうだった。
元親のことを考えると心の蔵が焦げるように痛む。呼吸が乱れる。余計に眠れなくなる。触れられると体温が急上昇してくらくらする。離れようとすると余計に考えてしまって埒が明かない。
「つまりだ。この病の原因は貴様にあると私は考える。長曾我部、貴様は私に何かしたのか? この病の名を教えろ!」
元親は、開いた口が塞がらなかった。どうやらこの男、自分がとんでもないことを言っているのに気づいていないらしい。当たり前か。何せ自分が病にかかっていると思っているくらいなのだから。
「あー…石田。俺から言えるのは二つだけだ」
「何だ、答えろ!」
「一つは、それは病なんかじゃねえ。まあ…ある意味病かもしれねえけど命に別状はねえ」
「何…!」
「もう一つは、そいつの正体は自分で突き止めろ。で、わかったら俺に教えてくれ」
そう告げて、元親は落としてしまった文を持ち上げ再びそれを読み始めた。三成は納得がいかなそうであったが、元親は文で顔を隠してしまいこれ以上話を続けることは無理そうだと悟った。
「…わかった。ならば、すぐさまこの病の名を突き止めてみせよう」
颯爽と部屋を出ていく三成。それと同時に顔を上げる元親。元親の白い頬も、先程の三成と同じように赤い。
「…そりゃ、恋ってんだよ、石田。どっかの誰かさんがこの話聞いたら、喜ぶだろうよ…」
高鳴る胸を押さえながら、元親は笑った。長らく笑ってから一息つき、誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。その声はどことなく恥ずかしそうで、それでいて愛おしさが含まれていた。
「俺も、同じ病にかかっているみたいだぜ」
その病の正体は