「某を、殺めてはくれぬか。政宗殿」

何を言っているのだ、こいつは。そう思うのと同時に、俺は煙管に手を伸ばした。南蛮から伝わってきたというこれは、何やら中毒性があるらしい。一度吸ってからすっかり虜になってしまった。
身体中に煙が染み渡り、ふう、と吐き出すと、真田が嫌そうな顔をした。

「お前も吸ってみるか?」
「遠慮致す。それより、政宗殿」
「一度吸うとやみつきになるぜ?」
「政宗殿!」

戦の時代は、終わった。今や日ノ本は泰平の世を迎え、誰もが争うことなく平和に暮らしている。天下を掴んだのは家康だ。誰も反対はしなかった。
生き残った有力武将は変わらず自分の地を守ることとなり、今俺の目の前にいる真田は、武田のおっさんの跡を継ぎ甲斐の領主となった。
なのに何故、殺してくれなどほざくのか。

「真田幸村。アンタはもう、甲斐を守る領主なんだ。Do you understand?」
「わかっておりまする。だから今日、貴殿に甲斐を受け渡しにここへ来た。某の代わりに甲斐を守ってくれぬか。政宗殿」

煙管を置き、俺は力一杯真田の頬を殴った。久しぶりに人を殴ったせいか、ひどく痛んだ。本来なら俺ではなくあの猿がこういう役の筈だろう、と思ったがアイツはもういない。
口から一筋血を流した真田が、笑った。やはり赤が、血が似合う。懐かしい。俺は頭の片隅でそんな風に思った。

「某は貴殿とは違う。人を守るよりも人を殺めることの方が多かった」
「争いが好きな訳ではない。お館様の望んだ泰平の世を迎えることが出来、幸せを感じている」
「だが、この身体は、心は変わらず求めているのだ! あの戦場を、滾る思いを! このままでは本能のまま、家康殿の首を狙うやもしれぬ」

「だから、某を殺めてくだされ。政宗殿」

結局決着を付けずに戦を終わらせたのは、俺は真田を殺したくなかったからだ。俺の永遠の好敵手として、生きていてほしい。俺自身が国主でもなく武将でもなく、ただの男であれる唯一の存在。そんなかけがえのない存在を、殺したくなかった。

「OK、殺してやるよ」

六文銭を引き、噛みつくように口づけをすると、真田の大きな瞳が更に大きくなった。

「なっ…!」
「殺してやるよ、幸村。お前のその修羅を。二度とそんなことを思わねえように、な」




骨の髄まで愛してやる




第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -