煙草の煙が一筋浮かんだことに、俺は目を丸くした。

「いつから?」
「…は?」
「いつから煙草なんて吸ってんだよ」

付き合ってもう半年になるが、煙草を吸うなんてことは知らなかった。ぎゅう、と押し消される煙草からは白い煙と独特の匂いがする。見慣れぬもののせいで、何だか知らない人みたいだ。

「五年は吸っておる」
「え」
「少しやめておったが、思い出すと吸いたくなるものぞ」

かちりとライターが火を吹く。わざわざ用意したであろう灰皿を見ると、吸い殻が既に三本。俺はこの一瞬で様々なことを考えた。煙草を吸うなんてもしやストレスでもあるのか。煙草なんて身体に悪いだろ。副流煙とか知らねえのか。つーかここ俺の部屋だぞ。俺のことはどうでもいいのか。

「毛利さんよお」

細い指から煙草を取り上げると、切れ長の目がうっすらと驚きの色を浮かべた。薄い唇にキスをする。初めて感じるこの苦味は、きっと煙草のせいだ。

「盛っておるのか。抱いてやろうか?」
「ちげーよ馬鹿! …煙草なんて吸うなよ。寿命が縮むぞ」
「…」

頭に手を回され、そのまま強く引き寄せられた。二回目のキスはさっきより激しい。絡まる舌からはより強く苦味がして、いつも以上に上手く息が出来なかった。

「っは…、苦えよ!」
「これで思い出すであろう」
「はあ?」
「煙草を見ると、我のことを」

言葉の意味を理解した瞬間、俺は自分からキスをした。その言葉、そっくり返してやる。煙草なんかより俺を求めたくなるように、無我夢中でキスをした。この舌に焼きつけてやる。何度も欲しくなってしまう、毒の味を。



シガーキス



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