長曾我部からメールが来た。誰からメールが来たかなどはどうでもいい。大切なのは中身だ。添付されていた写真を見た瞬間、私は飲んでいたコーヒー牛乳を思わず吹き出しそうになり、盛大にむせてしまった。

「いっ、家康っ…?」

写真に写っていたのは、日本一と書かれた鉢巻を頭に巻き、両サイドに参考書やら問題集を積み上げている私の彼女の姿。
一体彼女の身に何が起きているのか。真相を確かめる為に私は彼女の教室へと走り出す。言っては悪いが、彼女は勉強が苦手だ。大学進学だって考えていないのに、どうしていきなりあんな事をしているのか。私は不思議でしょうがなかった。

「家康っ!」
「おー、早速王子様の到着だ」

待ち構えていたかのように笑う長曾我部を押し退け、私は家康の前に立つ。いつもならすぐに飛びついてくる筈の家康が、今日は何の反応も見せてこない。必死にノートとにらめっこしている。

「…家康?」
「水兵リーベ僕の船…」
「おい、どうした家康」
「七曲りシップスうう…!」

バキン。シャーペンの芯が折れた。わなわなと肩を震わせる家康に、私は戸惑ってしまった。明らかに様子がおかしい。一体全体どうしてしまったのか。

「家康、一体どうしたんだ?」
「…三成…っ」

飴色の大きな瞳に涙が滲む。参考書を退けると、家康の柔らかい頬が赤く染まった。

「ごめんなさい!」
「…は?」
「ごめんなさい三成…わし、わしっ、頭良くなるから! 絶対絶対頭良くなるから!」

涙ながらの謝罪に、私は目を丸くする事しか出来なかった。ぽん、と肩を叩かれ、振り向くと笑いを堪えている長曾我部と、呆れ顔の伊達がいた。

「…長曾我部。これは一体どういう事だ…?」
「くくっ…、こ、これっ、これ見りゃわかるぜ」

差し出されたのは一冊の女性雑誌。家康がよく読んでいる物だ。指定されたページを見ると、そこには。

「…なるほど、な」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながら参考書を読んでいる家康の腕を引き、そのまま抱きしめる。きゃあ、と歓声が沸いたがそんなものはどうでもいい。

「家康、私との子どもが欲しいと思ってくれていたのか」
「え? あ…! う、うん…」
「ありがとう。そして無理はするな。お前はそのままでいい」
「三成…!」

愛しい小さな身体を力強く抱きしめる。ぱちぱちと拍手が起こり、結婚式には呼んでくれ! と囃し立てる長曾我部の声が聞こえてきた。
昼休みが終わるまであと五分。それまで見せつけるのもいいだろう?

「元親、本に何て書いてあるんだよ」
「女が賢く、男が美形なら素晴らしい子どもが産まれるんだとよ」
「…リア充bomberしろ」



恋に参考書はいらない




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