たった一つ。たった一つ変わっただけだ。それだけなのに、こうも儚く見えるとは。
「…ほせえ」
すっとくびれたウエストは、嫌でもこいつが女だという事を主張している。普段はどこにいても目立つ程うるさいじゃじゃ馬だというのに。女らしさの欠片もないのに。
それでも、こうしてまじまじと姿を見れば、女という事実がはっきり見えてくるからずるい。細いウエスト。華奢な首。丸い肩。上を向いている睫毛に、小さな赤い唇。そして、ほどかれた長い柔らかな髪。
普段は一つにまとめられた長い髪を初めて見た時は、尻尾みたいだと思った。実際、その髪はこいつが暴れまわる度に慌ただしく揺れるのだ。その尻尾は、今はばらばらになっている。それだけだ。それだけで、こうも儚く、艶かしく見えるとは。
「…政宗、どの…?」
「Good morning、幸村」
「まだ、暗いでござるよ…」
「ああ、そうだな」
とろりと微睡んでいる大きな瞳。少しだけ開かれた唇に、啄むようにキスをすると、普段は抵抗されるのに応えてくれた。驚きはすぐに興奮に変わり、何度も何度もキスをする。はああ。熱い吐息が唇を濡らす。
角度を変え、漏れる声を塞ぐように舌を入れ、舐める。やっと餌にありつけた獣のようだ、と頭の片隅で思ったがそんな考えは一瞬にして溶けてなくなった。もう、我慢は出来ない。
「壊さねえように、してやるよ」
口では言ったがそんな余裕はないだろう。大切にしてやりたい。しかし、めちゃくちゃにしてやりたい。背反する感情は、今は後者が圧倒している。
指に絡めた細い髪は、最後までほどける事はなかった。
二律背反