最初の主が亡くなって、早一年が経った。時の流れとは実に容赦ない。
一年前、呆然と父の死体を見つめていた子供はもういない。今や父の後を継いで立派な国主となり、民に平穏を与えている我が主。誇りに思う。誇りに思っているのだが。

(どうしても、比べてしまう)
(…輝宗様と)

一年前亡くなってしまった俺の最初の主は、現主である政宗様の実父、輝宗様。柔らかな笑みの似合う、優しい方だった。あの方の側にいるのは、心地よかった。

政宗様が優しくない訳ではない。政宗様も、誰にでも分け隔てなく接する事の出来る御方だ。
しかし、時々感じるのだ。片方しかない瞳に浮かぶ、冷たい感情を。
その感情の原因は、亡くなってしまった父のせいか、それとも己を忌み嫌った母のせいか。俺にはわからない。右目として今や誰よりも側にいる存在でも、わからないのだ。

「…小十郎」

今も、政宗様の瞳は冷たい。低く身体の芯に響いてくる声を聞いて、一層輝宗様に似てきたなと思った。
ぎらりと光る左目が、俺の姿を映しては捉えている。

「お前は誰を見ている」

政宗様の言葉に、瞬時に対応出来ない自分がいた。
気づいていたのか。政宗様に、輝宗様の面影を重ねている事に。

「お前の主は誰だ?」
「…政宗様にございます」
「なら俺を見ろ。俺だけを見ろ。俺に他の奴を重ねてんじゃねえ」

この鋭さは、輝宗様とは何一つ似つかない。ぞくりと背筋に走る感情は、恐怖か、それとも。

「俺はずっと、お前が欲しかったんだぜ小十郎」
「…政宗様、何を…」
「だが、漸く手に入れたってのにこのザマだ」
「何を仰って…」
「もう一度聞く。小十郎」

お前は誰を見ている?

冷たいと思っていた感情の正体は、嫉妬にまみれた炎だった。



冷たい炎




BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -