これ以上優しい思い出を増やさないでくれ。心が重たくなってしまう。一人になった時、どうしていいかわからなくなってしまう。
そんな事を思っても、意味がないとわかっているけれど。
「お前は本当に、秀吉殿の事になると見境がないな」
「秀吉様を侮辱した罪は万死に値する。罪人は断罪せねばならない」
「そう言って…毎回怪我をされてはたまらんぞ」
痣や傷痕だらけの細い身体に薬を塗り、丁寧に包帯を巻いていく。本来ならば衛生兵が行う事だが、今ここにいるのはワシと三成だけ。薬草の匂いが立ち込める。嫌いではない。
三成は口をへの字に曲げている。これは機嫌が悪い証拠だ。
三成が負傷した理由は、秀吉殿の事を侮辱した賊と戦ったから。ワシが駆けつけた頃には全て片づいていたが、結構な人数を一人で相手した三成も、かなりの傷を負っていた。
「お前はもっと、自分を大切にした方がいい」
「私の命は秀吉様の為にある。秀吉様の為ならば、この身などどうなっても構わない」
「…そんな事言うなよ、三成…」
秀吉殿がいなくなったら、お前はどうなってしまうのだ。
盲信というものは実に恐ろしく、それを覆す事は無理に等しい。他人がどうにか出来るものではない。
この男は、間違いなく壊れるだろう。己が信じてやまない神を亡くした瞬間、二度と元に戻れない程ばらばらに。
その瞬間をもたらそうとしているのは。
「家康」
「! な、何だ?」
「いつも、すまないな」
突然のらしくない謝罪に、ワシは目を丸くした。三成がこちらを向く。真っ直ぐ突き刺してくるような視線は、普段より随分柔らかく見えた。
「お前だけだ。私に忠告をしてくるのは」
「三成…」
「実は、感謝している」
これが最初で最後だろう。感謝をされるのは。それでいい。それでいいのだ。
ぐっと込み上げてくる熱を噛み締め、ワシは笑った。
「ワシの方こそ、ありがとう、三成」
これ以上優しい思い出を増やさないでくれ。心が重たくなってしまう。一人になった時、どうしていいかわからなくなってしまう。
(せめて、お前を殺める時までは)
(この思い出を抱いていてもいいだろう?)
優しい荷物