夕飯買って来るけどなんか欲しい物あるか、と聞くとさくらんぼが食べたいと予想外の返答が返ってくる。本当に何がいい、再度聞くとチェリータルトとまた斜め上を行く回答が返ってきて参った。

「そんな夕食にしたら炭水化物だけになって体によくねぇ」

「どうして?さくらんぼにはミネラルも鉄分も含まれててビタミンAからCまでバランスよく摂取出来てカロチンも含まれてて、それにカリウムも豊富…」

「分かった分かった、食後のデザートに置いといてやるからタルトとかケーキを主食にすんのはやめとけ」

なんでそんなにさくらんぼに執着してるか知らないが多めに買って冷凍庫に保存でもしとけばいいだろう。

「ありがとう、承太郎」

花京院はぎゅう、とテーブルの椅子に座ってる俺に後ろから抱き着いた。視界を向けると嬉しそうに綻んだ顔とぱたぱたと揺れる尻尾が見える。朝起きてから二度冷水で顔を洗い頬を抓ってみたがどうやら夢ではないらしい。残念な事に目の前のこの犬もどきを可愛いと感じてる自分がいた。

行ってらっしゃい、という言葉に見送られて家を出る。そんな言葉を聞いたのはいつぶりだったのだろう。

服は取り敢えず俺のを着せておけばいい、サイズが多少ダボ着くかもしれないが。あのベッドに二人で寝るのは寝苦しいから布団も買わないとならない。大型のホームセンターに車を走らせると、そのホームセンターの外国産の食品コーナーに冷凍のチェリータルトが置かれていた。国内産のじゃないと嫌だとか言われたら面倒だがカゴに入れておく。主食にではないデザート用にだ。それから一通りの買い物を済ませ近くのスーパーで適当に食材を買い足してから家に戻った。

家に帰ると、花京院は玄関まで出迎えにきて嬉しそうに笑ってみせた。懐っこい奴だなと思わずにやっとしてしまう。頭を撫で回して部屋に入るとテレビゲームの電源が入っていた。カーレースのゲームの途中で、ポーズ画面のまま止まっていた。花京院はホームセンターで買ってきた布団の入った大きめの袋を見て、それを開けてみて不思議そうな表情をした。

「どうした」

「……これは僕の?」

「そうだ」

「一緒に寝ないんだ?」

「……寝苦しいだろう?」

なんだか知らないががっかりしたような後ろ姿が可哀想だったから意味もなくまた頭を撫でると、なんとも言えない愛くるしい表情をして振り返る。

「一緒に寝るのが当たり前と思っていた」

捨てられた前の飼い主のところでそうだったのだろうか。それはそれで変な話だがうちの家のベッドはシングル用だから一緒にゆったりと寝れる程広くはない。犬の方に戻れば話は別だがな。

「昨日承太郎の腕の中心地よかったから」

「………っ、」

「でもしょうがないね。ゲーム、これ終わらせるから初めから一緒にやろう。…承太郎?大丈夫、固まってどうかしたかい?」

てめぇこそそんな台詞をはにかみながら言うのどうかしてねーか。ゲームが好きらしい花京院は俺の袖を引っ張って早くしようよ、とせがんでくる。やれやれだと思いながら、先に食材を冷蔵庫に放り込んでから俺を待っている花京院の相手をした。ゲームの。一時間程遊んだ後、花京院が勝って終わったところで(一度も勝てなかった)ゲームを終わらした。楽しかった、と言いながらゲームのカセットを抜く花京院の腰をなんとなしに抱き寄せた。ぱちっと綺麗な目元を見開いて花京院が至近距離で頬を赤くする。

「……承太郎は男前だね」

照れたように言った言葉にこっちがどきっとする。はたはたと、嬉しそうに尻尾が動いてるのが可愛らしかった。耳を撫でると擽ったそうに笑ったから、自然とキスがしたくなって頬に軽く唇を落とした。腕の中で一瞬固まった花京院の心臓の辺りに手を当てると、心音が大きくなってるのが分かる。

「拾ってくれたのが承太郎でよかった」

幸せそうに花京院は頬を赤らめて笑った表情を見せた。情が沸く、そう思った。夕食に肉じゃがを作ってやって食べさせ、冷凍のチェリータルトを解凍して切り分けて皿に乗せ出してやった。花京院はそれが嬉しかったらしくよそ見してる間に全て食べ終えてしまう。カロテンかビタミンか忘れたけど、そんなに早く食べてしまってちゃんと吸収出来たのだろうか。

お皿洗うよって言ってくれるこの犬は頗る可愛い。その間に風呂に入る事にして、バスルームに入りシャワーを浴びた。湯船に浸かっていると不意にがらりとバスルームの扉が開いて花京院がこちらをじっと見ていた。

「……覗き見をするな」

「承太郎は一緒に入らない人?」

「は、一緒に…入らないだろう普通…。てめぇは前の飼い主とどういう過ごし方をしてたんだよ」

「……じゃあ待ってる」


……待ってる?

花京院はしゅんと耳を垂らして扉を閉めると、バスルームの曇り硝子の扉の向こうで座り込んでしまった。やれやれだと溜息を落としつつ扉を開ける。見上げてくる視線は不安そうに見えた。

「入れ」



身体を洗ってから花京院が狭いバスタブにざぶんと入ってくる。当然だが狭い。それでもこの方が安心するらしいから仕方ねぇ。白い頬が紅く蒸気して、睫毛に水雫が溜まっていた。濡れた赤栗色の髪や耳からぽたぽたと湯が落ちている。

「承太郎は彼女はいないの?」

「いないぜ。…のぼせそうだから先上がる」

「うん。でも何で作らないんだい?男前だからモテるんだろう?」

「面倒臭ぇから」

「マメに見えるよ」

花京院の顎を掴みこっちを向かせた。落ち着いた雰囲気の目元が大きく見開かれていくのが見えた。

「可愛いペットにはマメになるだけだ」

花京院は一瞬固まってから、ふわりと頬を緩ませた。こんな事していたら愛着が湧いてくる。仕事が忙しいからあんまり相手してやる時間ないだろうに、困った。













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