妙な甘さを含んだ赤茶色の髪はよく同級生にからかわれた。何でそんな色をしているの、とよく聞かれた。元からそんな色なのだから、生まれた時からだとしか説明の仕様がなかった。小学生の頃と言うのは大人が思うよりも子供社会はシビアで多数の中で異質な匂いを嗅ぎ取ると、それは時に淘汰されるべき対象へとシフトされる時がある。あまり活発とは呼べずどちらかと言うと家で本を呼んだりゲームをする方が好きな内気な性格をしていたから、クラスでは大人しいタイプに分類されていた。加えて彼らの中では特質とも言えるこの髪の色、これらは相乗効果を成してやんちゃな時期の子供達の悪気のない加虐心を刺激したらしい。

簡単に言うと教室の片隅で他の生徒に虐められていた経験があった。虐めの内容は至ってシンプルで給食のメインのおかずを取り上げられたり、私物である筆箱などの文具を持って逃げられたり、陰湿ではないけれど幼稚な内容だった。何か反応して欲しいのだろうけれど何も言い返す気になれずにされるがままにしているとある日、主犯格の男の子から拳が飛んでくる。ああ嫌だなと思い目を閉じた。ぎゅっと目を瞑って数秒間痛みに耐え忍ぶ準備をしていたのに何も起きない。

目をぱちりと開けると目の前にはさっき僕を殴ろうとしていた筈の男の子が床で仰向けになってのびていた。他の取り巻き達は二歩も三歩も後ろへと下がって僕の方を怯えたような目をして見ていた。…いや違う。僕の方を見ていたんじゃなくて、僕の目の前に立ちはだかった一人の少年の方を怖がるように見ていたのだ。


「……承太郎くん?」


名前を呼ぶと、承太郎は不機嫌そうな怖い顔をして振り返った。


「花京院が何も言わねェから悪いんだ。本当は強い癖に」


それから、承太郎はよく僕の側に居るようになった。一時的な虐めはそれで波が引いた。僕も何か言われたら相手を言いくるめるようになったから、髪の色について詰まらない文句を言う奴はいなくなった。それでも承太郎は僕が心配なのかいつも何かあると駆け付けて来てくれた。熱で倒れてしまった時も、体育の時間に転んでしまった時も承太郎はすぐに僕の事を気遣う癖がついてしまっていた。申し訳なかったし、反面やはりどこか嬉しかった。特別なんだ。承太郎にとっても僕にとっても特別なんだとそう思えたから。小学校を上がり中学に上がると一旦クラスが離れてしまった。いつも一緒だったから少し、寂しいと思ったのも事実だった。

学年が二年目に上がった時に再びクラスが一緒になる。話をしようか迷った。昔はよく話していたけど、今僕から話し掛けても大丈夫だろうか。鬱陶しいと思われないか心配だった。それでもどうしても話がしたくて承太郎の席まで行ってその肩を叩いた。身長伸びたなって思う。当たり前だけど小学校の時よりは少しは大人びてる。

「承太郎?…今年同じクラスになったね」

承太郎が碧色の綺麗な瞳を見開いて僕の方を見上げた。言葉を失ったような顔をしていた。…まさか僕の事覚えてないとか、一年間クラスが離れていただけでそれはないと思いたい。

「花京院…、伸びたな」

「ああ身長?それは承太郎の方が伸びてると思うけど」

妙に歯切れの悪い承太郎に首を傾げてしまう。何も変な事は言ってないけどなんとなく様子が変な気がする、気のせいかな?

「承太郎さっきの授業居眠りしてたの見えたよ。ノート見るかい?明日提出だった筈だから」

「…そうだな。…花京院お前」

「ん?」

「……いや何でもねぇ」

承太郎はなんだか困り切ったような顔をして深く溜息を着いた。話し掛けられたのが嫌だったのか?……そんな筈はないと思うけど、久し振りに話したからなんだか少し緊張したせいでそう見えただけだったのかもしれない。

それから休み時間に放課後に、時々また承太郎と話をするようになった。承太郎はモテるから、クラスの女子に手紙を渡してと頼まれたりする事がたまにあった。その度に心底面倒臭そうな顔をするのが面白くてつい笑ってしまう。
ある日は放課後に校舎裏に呼び出されて告白されていたのを、偶然二階の窓から見つけてしまった。後で話を聞くとそれも断ったらしい。外見だけ見ると平均よりも少し綺麗な感じの子だったのに。

「なんで誰とも付き合わないの?」

日直だったから居残りをして、黒板を綺麗に消して最後に集めたプリントの束を整えている時に帰りを待ってくれているらしい承太郎にそう聞くと、眉を顰めて溜息をつかれた。

「……好きな奴がいるからな」

「えっ、そうだったのか。同じクラスの子?」

すごく興味が湧いてきて隣の席に座って問い掛けると、承太郎は無言で人差し指をこっちへと向けた。暫くそのまま沈黙が続く。承太郎は頑なに僕の座ってる方を指差していた。

「……この席の女の子か。山岸さんだっけ?」

「………天然で言ってんのか?」

「天然?山岸さんは気は強そうだけど天然とかいうタイプではないよ」



「天然はてめェだよ」



がしっと後頭部を掴まれて吃驚して承太郎の目を見ると、ひどく焦れたような表情をしていた。それでもう一度承太郎の言いたい事をよく考える。…でもまさか。そんな筈はない。

きらきら、きらきらと輝いて見えた後ろ姿。憧れで僕にとってはヒーローで、誰よりも格好いい承太郎がそんな事を言う筈はないんだ。顔色を伺うと熱い視線が真っ直ぐに刺さって、鼓動が動くのが自然と早くなってしまった。頬が熱い。じんわりと変な汗も出て来た。

「とぼけてんのか本気で分かんねーのかどっちだ」

尋問するような言い方にも聞こえるし、余裕を失くしているようにだって聞こえた。

「……君の前でとぼけた事なんかない」

それだけを精一杯伝えると承太郎がごつごつとした指で僕の唇をなぞり、それから無言で唇を重ねられて思わず目を瞑った。とぼけていた積もりは全くないけどずっとこうされるのを待っていたんだと、その感触の心地良さに感じずにはいられなかった。






うん。
僕も承太郎が好きだよ。

心の中でそう念じながら承太郎の背中に手を回した。幼い頃からのヒーローが口付けをした、春の午後。
















2015.5/27
地味に由花子さん登場です。名前だけ(笑)仗助もみーんな同じ学年設定な学パロ。だってその方が楽しそう!










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