学校の側の湖できらきらと光る緑色の光を見た。その光の形は人のように見えた。気のせいかもしれないと思ったし、確かに見たんだとも思った。家に帰ると母親が何かあったの?といつものように明るく聞いてきたけどなんとなく口を閉ざした。さっき見た風景が本当かどうか確かめたい。そう強く思った。あれが本当なら俺の背後にいる生き霊も本当の筈だ。俺と同い年ぐらいの子供が居た。きっとあいつにも見えてる筈だ、あれが夢や幻で無かったら。果物の皮のようにてかてかと光る、緑の何か。あれは、きっと俺が見ている悪霊と同じモノだ。



翌日も学校の側の湖へと出掛けた。放課後他の子供達は公園や近所の駄菓子屋へ行くからこんな場所に同い年の奴がいるのは珍しかった。危ないから近付くなと先生や親にみんな言われてる筈だった。見たことないやつ、赤みがかった変わった色の髪をしてる。そして、くるくるとそれは外人の髪みたいに前髪が少しだけうねって見えた。そいつの背後にはやはり昨日見たのと同じ緑色の人ではない何かが、まるでそいつを守るかのように側に寄り添っていた。俺が近付くと緑の奴が俺の方を先に見た。

「……誰?」

ぱっちりとした女子みたいな瞳を瞬かせてそいつが俺の方を振り返る。怖がってるようにも、警戒してるようにも見えた。

「誰なの?君」

「……承太郎」

「じょう、たろう?何か僕に用?」

胸元に花京院、と名前が書かれた名札が見えた。俺も本当なら名札は付けてなきゃいけないけど、今朝隣の小学校の奴にぶつかられて喧嘩になった時に失くした。どこかに落としたんだろう。

「かきょういん、って読むのか?」

「……うん。なんで僕なんかに話し掛けたの?」

本当に不思議そうに花京院がそう俺に聞いた。俺は何で話し掛けるのにそんなに理由がいるのかその事の方が不思議だった。用がなくても話したりはするだろう。花京院は違うのか。

「用はある。お前、俺の後ろにいる奴見えるか?」

花京院ははっとしたように瞳を見開き、時間が止まったかのように何秒か呆然としていた。隣に座り込み緑のメロンみたいな人型の奴を睨んでみる。表情はよく分からないけど怖いようには見えない。

「俺はこの、緑の奴が見える。花京院もこれが見えて…」

そう言いかけた時に急に身体に体重がのしかかる。そして、のしかかれた体重に対して咄嗟に反応出来ずに不覚にも地面に手を付く。…反射神経は悪い方じゃねぇんだけどな。プロレス技を仕掛けられたのかと思ったけどそうじゃないらしい。花京院の手が俺の首に回って、その顔を見ると涙をぼろぼろと零していた。そして「やっと見つけた」ととても嬉しそうに言って俺をぎゅうぎゅうと抱き締めた。見つけたっておかしいだろ、俺が先にお前を遠くから見つけたんだ。見つけられたのは花京院の方なんだ、絶対。

「やっと見つけた、同じモノが見えるひと」

それがそんなに泣く程嬉しいのかは理解出来なかった。よく分からないけど泣くなとそれだけ思って、服の袖でごしごしと花京院の目元を擦った。目元を擦ったらよくねぇらしいけど俺は泣かないからどうよくねぇのかわかんねぇ。悪いな。

それから二人で二人にしか見えないモノの話をした。それが幼い頃の俺と花京院の出逢いだった。今でも細かいところまでよくよく覚えている。初めて俺に会った時に零した透き通った涙の色も、しっかりと目に焼き付いている。



「僕だって覚えてるよ」

花京院は宿題の問題を解きながら頬杖を付いてそう言った。身長がぐんぐんと伸びて体格はぐっと大人に近付いたけれど、初めて出逢った時に涙を流していた印象は今でも拭えない。繊細な部分と頑固な部分を併せ持った難解複雑な精神構造をしている花京院は、人との間に距離を作りがちで少しの事でも深く勘付いて考える癖がある。勝負事の際はその方が本人にとって有利に働くのだろうが、普段の私生活では神経を無駄にすり減らす部分も多いだろう。あの時だって俺が声を掛けなければ自分にしか見えない存在について思い詰めて湖へといつしか吸い込まれて行ってしまっていってたんではないかと、そんな事を時々想像する。結論を言うとあまり放ったらかしに出来ない奴だと常々感じてる。

「これが終わったらケーキ食べたいな」

「チェリータルトの店はもう飽きた他のとこなら一緒に行ってやる」

「……でも一緒に来てはくれるんだね。そういうところ昔から変わらないの気付いてるかい?」

くすくすと笑う声が耳に響く。お前だから付き合ってやるんだと喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ。そういう事を言うとまた悩ませるだろう。俺が花京院に抱いてる感情なんかに勘付かれた日にはどうして?とか答えのない事を問い詰められそうで、気持ち悪がられるよりもそっちの方が困る。どうしてなんて聞かれたら一緒に居て気が付いたら好きになっていたとか歯が浮くような痒い台詞を言わなければならなくなる。それは御免だ。だけれどそれ以外に説明しようがない。

「そういえばあの時失くした承太郎の名札四人で一緒に探したの覚えてる?僕と承太郎とハイエロファントとスタープラチナの四人で」

「覚えてるに決まってるだろ」

「空条、って書いた名札水溜りの中に落ちてたのをハイエロファントに拾って貰ったんだよね」

「あれなら家のどっかにある。捨ててない」

「え?どうして?」

……しまった。思わず舌打ちが出る。問題を解いていた花京院の手の動きがぴたりと止まる。そこ引っ掛かるのか。

「どうして?何のために?そんなの取っておく性格じゃないだろう?」

「……なんでもいいだろうが喧しいな」

「小学校の時に使ってた名札なんて、僕でも捨ててる」

「だから、………一応思い出の品だ」

言及がそれ以上続くとこっちも感情的になってボロが出そうだから頭の中で繰り出した最も無難で嘘ではない答えを言った。
ハイエロファントしか友達と思ってなかったお前が俺に対して心を開いてくれた時に探してくれた物だろう。だから捨てられないのだとそこまで言わされるのは勘弁願いたい。

「……君でもそんな事思うんだね」

「俺は執念深い方だからな」

「ふふ、言葉の使い方間違ってないかい?」

幸せそうに花京院が笑った。まだこのままで居させろ。ちゃんといつか言ってやるから。それまでは追求するな、誤魔化すのは苦手なのに変に神経を使うだろう?











2015.5/24









- 4 -

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -