ぽかぽか、と暖かい日差しが差して気持ちが良かった。承太郎は日曜日も仕事に出掛けていてまだ戻って来てはいない。マンションのベランダに干していた布団とシーツを取り込んでダブルベッドにセッティングする。
予定だと今日の夕方には帰ってくる筈だった。僕は今月中に描き上げないといけないデザイン画の仕事があったけれどそこまで急ぎではない。ふかふかのいい匂いのする布団に背中を預けると眠たくなった。承太郎は三時過ぎぐらいには帰ってくるだろうか。それとももう少し時間がかかるかもしれない。仕事に取り掛かろうか迷う。もし早く帰ってくるのなら食事の用意をしてやりたかった。どうしようかと考えているうちになんだか瞼が重たくなってくる。昨日の夜は根を詰めて仕事をしたから三時間程しか寝れていない。微睡む、その怠惰な睡眠への誘いには勝てそうになかった。承太郎、ごめん。夕食の準備がもし遅れそうだったら久しぶりに出前を取ろう?心の中でそう謝るとやれやれだぜ、って優しく言う声が聞こえたような気がした。



「…花京院、まだ起きねぇつもりか」

ふわ、と石鹸の香りが鼻腔に届いた。その石鹸は僕がロクシタンで買ってきた普通のやつよりは少し高級で敏感肌に優しいタイプの石鹸だった。承太郎の為というよりは自分の為に選んで買ってきたものだけれど、いい匂いがするから気に入っている。
承太郎の声がした、はっとして飛び起きるとシャワーを浴びて出てきたばっかり、そんな格好の承太郎がベッドの脇に座っていた。上半身は裸でボクサーパンツだけを身につけて、髪からはぽたぽたと滴が垂れ落ちていた。久し振りに帰ってきたと思ったらいきなり寝起きにそんな格好でいるんだから困る。思わず頬が赤くなるのは止められなくて視線を逸らした。すると逆に顎を掴まれて承太郎の方を向かされる。その眉間に皺が刻まれているのが見えた。

「……じょう」

名前を呼ぼうと思った。そしてお帰りなさいと、その言葉を言いたかったのだけどそれは無理だった。自分の唇が相手の唇に塞がれたからだ。

「なんか痩せてねーかこの前より」

腰を掴んで引き寄せて、わしわしと腰や腹の辺りを無表情で揉んでくる。その手を振り解こうとするのだけど少し力が足りない。承太郎はそれから更に確かめなければ気が済まないとでも言うように僕の着てるシャツのボタンを脱がし始めた。

「なにやってるんだい?」

「…なんで止める?」

「……夕食もまだだし、承太郎疲れてるだろう?今、出前取るから」

「てめーは俺と寝るより飯を優先するつもりか?」

「あのさ、僕は君の体を気遣って言ってるのが分からないかい?」

そう真剣に聞くと承太郎はにやり、と口角を上げた。そうして俺の手を掴み何を思ったのか承太郎の股間へと触れさせる。

「…あ、あの、なんだいこれは」

「気遣ってんならこっちを先にどうにかしろ」

「……そもそもらなんでこんな硬くなる?まだキスしかしてないだろう?」

そうっと下着の上から浮き出た形を指でなぞる。明らかに質量を増している、呆れた。でも同時にこちらも目の当たりにすると妙な気分になる。戸惑っていると再びキスをされ、こんどはいやらしく舌先で舐め取られる。苦しい、熱い。なぞるだけだった指を思い切って承太郎の下着の中へと滑り込ませて直に握り締めてみた。動かしてみろと言われて扱きあげる。どんどんと熱を増す、僕の手でこんな風になるんだと思ったら嬉しかった。




先に食事をして、承太郎を労って仕事の話を聞いて…の予定だった。おかしいな。

「……花京院」

承太郎の膝の間に座り込み大きく膨れ上がった性器を咥えて相手の顔を見上げた。相変わらず気難しそうな表情だけれど僅かに息が乱れている、ぺろりと舌を這わすと髪を撫でられた。深く吸い付いて刺激を与えてやる。気持ちよくなるかな。

「…上手くなってねぇか」

「そうかな」

頬や顎の下あたりをまるで子猫でもあやすかのように撫でくり回す手に安心する。このまま膝でずっと甘えていたくなるけどそうはさせてくれないのだろう。それにしても自分よりも身長が高くて体格がしっかりしてるとは言え、同性に甘えたい等という感情を抱かせるこの承太郎という男はやはり自分にとって特別なのだろう。

「続きをしなければならない?」

そう聞くと承太郎は何を聞くんだという怪訝そうな表情をした。続きをするのは当然だろうと言いたげだ。生憎僕にとってはそうじゃない。身体の再奥を容赦無く突き上げられるあの感覚が嫌いなのではない。このままずっと、承太郎の股間に顔を埋めてまるで専属の娼婦のように奉仕し続けていたい、そして時折髪や顔周りを撫でる手に甘えていたいのだ。この心境を承太郎に解って貰えるように言葉で説明するのは難しい。承太郎の手を取り、自分の頬にひたと当てて相手の顔を見上げた。言葉で伝えるのが無理であるのならば視線や表情で伝えてみるのはどうだろう。承太郎は僕を見降ろして自分の額の辺りに手を当てて、深く溜息を付いた。

「…てめーの言いたい事はなんとなく分かるがそんな酷な事を要求される言われはない」

「じゃあ、触るのはもうやめるよ。やっぱり夕食にしよう?」

ずらした下着を戻してやって立ち上がってそう言うと、承太郎はぐいっと僕の手を引っ張り苛立ちを隠さずに舌打ちをした。

「予定狂いっぱなしだ。急いで仕事から帰って来たんだからやらせてくれてもいいだろう」

「それはこっちの台詞だろう?お腹空いてるのに食べ物じゃない物を口に挿れたりするからだ」

そうして、お互いの意思の合意が為されないまま結局は承太郎が折れて出前を取り先に夕食を食べる事にした。強引に事を進める事だって出来ただろうけどこのところは承太郎はよく言う事を聞いてくれる。出前の蕎麦をすすりながらその理由を聞くと、それは「俺の方がお前の事を好きだからだ」と言われた。心外だな。気持ちの上で負けてるだなんて思った事はないのに。

お風呂に入って温かいお湯にゆっくりと浸かってから寝室に向かい、昼間日に当てて干して置いた心地よい布団へと潜り込む。するとすぐに腰を引き寄せる感覚ではっとする。不在の夜が長いと側に居る事に驚かされる、その上こうやって触れているだけで満たされる事に気付かされる。思い通りにならないお互いの指を絡ませるだけで此処まで安心出来る相手はもうこの人しかいないんだろう。

普通の女の子を好きになって彼女にして、何年か付き合って仕事が安定してきたら結婚して子供を作るーーー、そんな、当たり前で凡庸な幸せは君を好きになった所為できっと叶わない。それでもこれが一番幸せだと頑なに、それは君も一緒だろう?







2015.5/22









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